埋もれた才能4
翌日。
俺はルパーカさんに、俺のアトリエに来てもらった。
「昨日は失礼しました。シルヴィア様のお屋敷に連れて帰られるまで、お二人が貴族であると気づけず、ご無礼を……」
ルパーカさんは俺に向かってガバッと頭を下げた。
「いいんですよ、俺が言わなかったんだし。特にウチは成り上がりの元商人なので、気を遣わないで」
「いえ……すみません、ありがとうございました」
「気にしないで下さい。それより、今日はちょっと俺の実験に協力してもらいたいんです」
「実験、ですか?」
「はい。これなんですけど……」
俺はルパーカさんにスライム粘土と何枚かの絵を見せた。
「すごい絵ですね。前後左右から、同じ人物の絵をものすごく正確に描いてある」
前世で見た手作りフィギュア制作動画で、作りたいキャラクターの絵を近くに置いて作業していたので、資料になりそうなものを俺は先に準備していた。
「この絵の通りの人形を作りたいんです。材料はこっちの粘土で、魔力を通すと動かすことができる特殊な素材です。難しい作業だから、ゆっくりやってもらえればいいんですけど」
「わかりました。やってみます……」
ルパーカさんはそう言うと、スライム粘土に魔力を通した。
「おお、すごい。魔力を通すと急に柔らかくなりました。面白い素材ですね。ふむふむ……」
彼は初めて扱う粘土を器用にこねて、するすると形を作っていった。
「……え?」
あっという間に、キャラクターの大まかな形ができあがっていく。
はっきり人と分かる形になった人形を手に、ルパーカさんは一旦作業を中止してこちらを見た。
「すみません、オラの魔力だとこの辺で一度休憩が必要です」
「あ、大丈夫ですよ。その粘土、かなり魔力を食うので。それより、初めて作るとは思えないほど器用に進められましたね」
びっくりだよ。前に俺が同じくらい魔力を流して作れたのは、腐りきったゾンビみたいな不気味な人形だったのに。
「ありがとうございます。へへ……子どもの頃、村で泥遊びしていたのが役に立ちました」
と、嬉しそうにルパーカさんは言った。
「オラ、小さいときからどんくさくて、同年代の仲間に入れなくて、一人で土人形を作って遊んでいたんです。そしたら、近所のおじさんが、オラの土人形を焼いて土器にして民芸品にしたんです。旅人に売れて、嬉しかったなぁ。……まあ、その後、お駄賃を要求したら、『遊びで金を取る気か』と怒られたんですけど。そんなもんですよね。それで、最初は遊びでやってた人形作りも、おじさんにあれこれ言われて忙しくなるし、かといってお金になるわけでもないし、このままじゃいけないなぁと思っていたところに、同じ村のクロードが声をかけてくれて。一念発起して村を出ました。……でも、そこでもオラはうまくやれなかったんですけど。へへへ」
――ん?
「でも、いろいろな経験って、無駄じゃないですよね。こうして、オラの人形作りがアレンさんのお役に立てるなら嬉しいです」
「あ……ああ、そうですね。助かります。ルパーカさんとなら、すぐに俺の作りたい物を制作できそうです。俺が作りたいのは、これこれこういうサイズでポーズはこうで……」
「はい……はい……やってみます」
という感じで、ルパーカさんに協力してもらったことで、俺のフィギュア制作は急速に進みだした。
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