埋もれた才能1
フィギュアの制作を保留にした数日後、俺の家にシルヴィアが訪ねてきた。
彼女は、知らない男女二人を連れていた。
客間でコーヒーを飲みながら、用件を聞く。
「こちら、カトゥーさんとサトゥーさん。二人に、画家のアレンを紹介するように頼まれたの」
「初めまして、カトゥーと申します」
小柄で眼鏡をかけた女性がカトゥーさんで、
「噂の天才画家にお会いできて光栄です。サトゥーと申します」
ヤンキーっぽいリーゼントのマッチョ男性がサトゥーさんだった。
「初めまして、アレン・ラントペリーです。して、ご用件は?」
「カトゥーさんとサトゥーさんは、二人とも王国武術大会の実行委員なのよ」
「王国武術大会?」
たしか、以前、シルヴィアがレヴィントン公爵になる前に、実績を積むために参加したのが王国武術大会だったよな。
王国武術大会は、王都で毎年開催されているイベントだ。王国の軍人や冒険者などの腕自慢がこぞって参加している。特に国内一が決まる決勝戦の注目度は高く、年末の風物詩になっていた。
シルヴィアは二年前に、公爵位を継ぐ実力を証明するため、この大会に出たことがあった。その繋がりで、彼女は実行委員と知り合いになっていたのだろう。
でも、何で武術大会の実行委員が、画家の俺を訪ねてくるんだ?
「私ね、今年の王国武術大会の予選を盛り上げるのに協力することになったの。と言っても、主に私がやるのは、特等席で試合を観戦することなんだけど」
「へえ、そうなんだ」
前世で、芸能人がスポーツの試合を観戦しているところをカメラで撮られていたけど、そういうのかな。
有名人に頼んで試合に来てもらって、注目を集める。この世界だと芸能人じゃなくて貴族に頼むのか。箔付けには良さそうだなぁ。
……って、あれ? 武術大会って、たしか女王陛下も観覧していたよな。わざわざ依頼しなくても、有力貴族もたくさん観に行ってたし。何でシルヴィアにだけ特別に頼むんだ?
「実は、武術大会の人気が落ちていて、運営としては危機感を抱いているんです」
と、実行委員のサトゥーさんは意外なことを言い出した。
「武術大会が不人気? 昨年の大会もチケットは完売していると伺いましたよ?」
と、俺は聞き返した。
「それは、決勝のことですね。武術大会は決勝のみ女王陛下が観戦される御前試合で、この日の試合はたしかに盛り上がっています。ですが、実はその半年前から、少しずつ予選を行っているんですよ」
「ああ、なるほど。そうだったんですね」
「はい。その予選の参加者が年々減っておりまして。観客も、試合によってはガラガラになることがあったんです」
「はあ~、そういうことですか」
シルヴィアが盛り上げるように頼まれたのは、予選の方なんだな。
「話題作りに協力することになったのだけど、私が行くだけじゃあまり効果がないんじゃないかって、ちょっと心配なの」
と、自信なさげにシルヴィアは言った。
「いや、武術大会に入賞経験のある美女公爵なんて、これ以上ない人選だと思うよ」
そう俺が言うと、
「え、美女って、そんな……」
シルヴィアは照れたように口元を覆った。言われ慣れてそうなんだけど、シルヴィアは本気で照れているように見える。シルヴィアって、身分が高すぎたせいで周りのガードが固くなって、純粋培養されたようなところがあるよなぁ。
「うぅ……それでね、私がカトゥーさんとサトゥーさんから相談を受けたときに、アレンの名前もあがっていたのよ。王都の人気画家に宣伝してもらえたら、話題になるだろうなって」
「ああ、そうだったんだね」
シルヴィアの言葉に頷くと、カトゥーさんとサトゥーさんは姿勢を正して真っ直ぐに俺の方を向いた。
「本日は武術大会を盛り上げるため、お願いに伺いました。ラントペリー男爵、我々に協力していただけませんか?」
「そうですね……」
シルヴィアはガッツリ参加するみたいだし、彼女の仕事がやりやすくなるように、俺も少し手伝うかな。
「分かりました。俺も出来る範囲で協力します」
「ありがとうございます。では、詳しいご相談を――」
という流れで、俺は王国武術大会を盛り上げる手伝いをすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます