お茶くみ人形2
空は快晴。
マクレゴン公爵邸で開かれたパーティーは大盛況だった。
王国四大公爵家のビッグカップルが初めて主催するガーデンパーティーだ。招待状は取り合いとなり、公爵邸の広い敷地には人がひしめき合っていた。
緑の芝生の庭に配置された、白いテーブルクロスのかかったテーブルの上に、色とりどりの磁器、果物をふんだんに使ったお菓子が並ぶ。
シルヴィアと向かい合って席に着くと、隣のテーブルの会話が聞こえてきた。
「いやぁ、見事なティーセットだね」
ティーカップを手に持った紳士が感嘆して言うと、
「本当に、美しい磁器ですわ。我が家でも、いずれはレヴィントン領の磁器を揃えたいですわね」
と、彼の妻らしき女性も同意していた。そこで、紳士はニヤリと笑って、
「でも、知ってるかい? 実はこのティーセット、全てレプリカらしいんだよ」
と言った。
「えっ!? これがレプリカ?」
「ああ。ここにあるのはラントペリー氏の直筆ではないよ。本物は、あちらの建物の中に展示されている」
「まあ、それじゃあ、後で見に行かなきゃ」
婦人は興味深そうに建物の方を見ていた。
実は、ガーデンパーティーが決まった後、ローデリック様から急遽、同じティーセットのレプリカの注文が入っていた。
俺のアニメ美少女ティーセットでパーティーをすると言っていたローデリック様だが、実際にパーティーで使うとなると、皿の何枚かは割れる覚悟をしないといけない。コレクター気質の彼にとって、それは耐えられないことだった。
大量のレプリカの注文が入って、レヴィントン家の窯はしばらく大忙しだったけど、レプリカの作成では、工房の新人にも仕事が与えられて、良い練習になったそうだ。
「――しかしまあ、豪華なパーティーよね」
果物のタルトを食べながら、シルヴィアが言った。
「大貴族のシルヴィアから見ても豪華なんだ」
「うん。このお茶会のためだけに、レヴィントン家の窯に大量のレプリカを発注したのもすごいけど、他にも……」
シルヴィアはそう言って、視線を庭の中央に向けた。そこには、マクレゴン家の使用人が何人か立っていた。
彼らの横には、見たことのない魔道具が置かれている。
「マクレゴン領の技術を駆使して開発した全自動コーヒーメーカーです。これを使えば誰でも最適なコーヒーを淹れることができます。ぜひお試しください」
と、宣伝していた。
「すごいものを作ってるわね」
「うん。魔道具って、あんなものまで作れるんだ」
マクレゴン領のコーヒーメーカーは、前世で見た物よりかなり大きく、装飾も派手だった。
大きな箱型の土台に、ポットを持った人形が乗っている。魔力を注ぐと、人形のポットから、コーヒーが出てくる仕組みだった。
「お茶くみ人形って呼べばいいのかな。すごい技術だよね」
「そうだね」
たしかに、この世界の魔道具の水準を考えると、マクレゴン領の技術レベルはすごく高いと思う。でも――。
「あの人形の造形は、もうちょっと何とかならなかったのかなぁ」
俺は思わず本音を口にしていた。
ポットを持つ女の子の人形は、俺が描いたアニメ美少女ティーセットに似せて作ろうとしてくれたのだと思う。
しかし、その女の子のクオリティーが……前世の俺が中学生の頃に一生懸命描いていた美少女とどっこいどっこいの出来なのだった。
「あの人形は、アレンのティーセットに描かれた女の子を再現しようとしてくれているんじゃないかしら?」
「あー……そうだよね。ありがたいことだよね」
多分、魔道具技師さんが、慣れない手つきで作った人形なのだろう。前世の美少女フィギュアと同じレベルを無意識に求めてしまった俺が悪い。
――ああでも、あのお茶くみ人形に完成度の高い美少女フィギュアを乗せたら、もっと良い物になるだろうなぁ。
人形からコーヒーが注がれるのを遠目に眺めながら、俺はつい残念に思ってしまうのだった。
「アレンならもっと上手に作れそう?」
と、シルヴィアに尋ねられる。
「いや。俺、絵は描けても立体作品をうまく作れる自信はないよ」
「え、そうなの?」
「うん」
俺は、画力チートを持ってこの世界に転生して、〈弘法筆を選ばず〉のスキルで平面に描くものならなんでも上手く描けるようになっていた。
でも、立体作品は能力の適用範囲外だ。
俺一人でフィギュアのような人形を一から作るのは難しい気がした。本気で作るとしたら、協力者が要るだろう。
――っていうか、そもそも、こっちの世界でフィギュアなんて作れるのか? 材料、自然の粘土とかじゃなさそうだよなぁ。
ちょっと気になるし、家に帰って前世のフィギュアでも絵に描いてみて、〈神眼〉でできるかどうか鑑定してみようかな。
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