カントリーハウス1

 男爵位をもらってしばらく経ったある日、バルバストル侯爵が1人の貴族を連れて俺の家に来た。


「わざわざお越しにならなくても、呼びだしていただければこちらから向かいますのに」

「いやいや。今日はご家族にも聞いてもらいたい話があってね」

「家族、ですか」


 侯爵たちを客間に通すと、父と母も呼んで一緒に話を聞いた。


 バルバストル侯爵はまず、となりに連れてきていた貴族を紹介してくれた。


「こちらはカテル伯爵。用件は彼にも関わることなんだけどね」

「はい」

「突然だけど、家、買わないかな?」

「……へ?」


 マジで、突然ですね。

 いつも通り爽やかなイケメンスマイルを向ける侯爵を、俺は呆れ半分に見返した。


「貴族がそれぞれ地方に屋敷を持っているのは知っているよね」

「はい」


 王国内の貴族は都市と領地の屋敷を行き来しながら生活している。

 たいていは、領地の屋敷の方が豪華だ。

 王都は土地が限られるので、シンプルな建物が多いのだが、領地では自由に好みの屋敷を建てている。

 以前に磁器の開発で訪れたレヴィントン公爵家の城など、すごく大きかった。


「君は領地持ちの貴族ではないけれど、男爵位を持った以上は、地方に屋敷の一つくらいは持っておいた方がいいと思うんだ。貴族の格式を守るためにも」

「たしかに、そうですね」


 貴族は貴族らしい生活をしているから、貴族と認められる。

 爵位を受けた以上、俺もそれらしく振る舞う必要があった。


「そこでね、このカテル伯爵が、屋敷の一つを譲ってくださるって話だ」


 なるほど、それでわざわざウチに来たのか。


 地方の屋敷の管理は大変だ。維持費がものすごくかかる。

 カテル伯爵は、調子の良いときに複数の屋敷を持って、管理しきれなくなったんだろうな。

 多分、そういう貴族は多いから、その屋敷を新興商人に引き取らせることも、女王陛下とバルバストル侯爵の計画に入っていたのだろう。


 俺がチラリと横の父を見ると、彼は静かに頷いてみせた。


「ありがとうございます。ぜひ、詳しいお話を聞かせてください」


 俺がそう答えると、カテル伯爵はホッとしたような表情になった。よっぽど売りたかったのだろうな。


 使わない家の管理は前世でもけっこう大変だと聞いたことがある。

 でも、これは男爵位を受けたときからの必要経費かな。

 よほど酷い物件でない限り、バルバストル侯爵の顔を立てて決めてしまっていいだろう。


 こうして、俺は地方に屋敷を持つことになった。



* * *



 購入した屋敷は王国南部の海岸沿いにあった。


「すごい。リゾート地だ」


 南の海の家。

 海辺には真っ白な砂浜が続いている。


「しかも、購入した屋敷はお城みたいだし」

「歴史的な風情があるな。つまり古いということだが……」


 と、一緒に来ていた父が言った。


「たくさん修理しないとですね」


 屋敷は内部がかなり汚れていて、改装が必須だった。

 ただ、その分値引きしてもらえたし、建物の造り自体はしっかりしていたので、ちゃんと直せば良い家になると思う。


「そうだな。後々、お客様をたくさん迎えることになるはずだ。ウチは商売をやっているから、大きな商談にも使えるように立派に改装したいな」

「はい」


 周囲の環境が良いところだし、せっかくなのでリゾートホテルみたいにしたいなぁ……それだったらちゃんとコンセプトを決めて……そういえば、以前に見た王宮の天井画、すごかったよなぁ……。

 そうだ!


「改装についてなんですけど、やりたいことをひらめきました」


 人生初の俺所有の一軒家。

 それは、俺にとって落書きし放題の家なのである!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る