魔法花火2

 建国祭当日。


 宮殿のバルコニーには、女王陛下を筆頭に王族たちが並ぶ。

 彼らが見下ろす広い庭には、爵位持ちの貴族の席が敷き詰められ、門の外の大通りには、平民たちが見物に詰めかけていた。


 そんなあらゆる身分の人々の視線を集めて、夜空に数々の魔法花火が輝く。


 貴族や騎士たちが1年かけて準備した光のショーは、とても豪華で見ごたえのあるものだった。オーロラのような光のカーテン、動物形のかわいらしい花火、美しく整えられた幾何学模様――。


 見事なショーに、ひっきりなしに歓声があがる。

 この行事は王都で暮らす者にとって、1年に1度の楽しみなのだ。


 その中で一際ひときわ大きな賞賛を受けていたのは、新しく伯爵になった青年貴族のグループだった。彼らは魔法花火で王国の歴史を再現していた。


「すごい、ドラゴン!」


 魔法の才能にあふれているのだろう若者たちの手で、夜空に感動的な建国神話が描き出される。


「こ……この後に我々がやるのですか?」

「順番に悪意を感じるような……」


 他グループの演目を見るにつれ、仲間のおじさんたちの緊張が増していった。


 英才教育された魔法エリート青年貴族の中に、腹の出たおじさんが7人。

 こういうの、前世では公開処刑って言われてたよなぁ。


 そうして、いよいよ俺たちの番になった。


「負けてもともとです。精一杯やりましょう」


 俺たちは練習通り、空へと手を伸ばした。


 天から、色とりどりの光の花が、雨のように降りそそぐ。

 発光するピンクや水色の花の周囲には、黄金の星の光が漂っていた。


 俺たちがやったのは、昔からある定番の魔法花火だ。

 それは、年月を重ねるうちに無駄が省かれ、非常に扱いやすいものになっていた。

 でも、定番になるだけに、「こういうのでいいんだよ」という美しさと満足感があった。


「花と星? なんだ、陳腐ちんぷなものを」

「……いや、でも、綺麗じゃない?」

「ありがちだけど、今まで見た中で一番美しいような……」


 人々は狐につままれたような顔で、ありふれた花火の美しさに魅了された。

 定番というのは、もともと良い物だから定番になったのだ。


 しかも、今回は<神に与えられたセンス>で俺がさらに完璧に調整したからね。


「……伝統の再現か。新奇なものに走らず、地に足がついている。良い物を見せてもらった」


 ふいに、特等席から声が聞こえてきた。

 ワイト公爵だ。

 彼の言葉を聞いた仲間のおじさんたちの顔は、ぱあっと明るくなっていた。


 俺たちは無事に魔法を出しおえて、満足げに後ろに下がった。




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