幕間 新米男爵アレン・ラントペリー

魔法花火1

 俺が男爵になって早3カ月。


 レヴィントン公爵家の王都屋敷の庭に、7人のおじさんが集まっていた。

 以前、シルヴィアが武術大会に出るための特訓をしていた庭で、おじさんたちと俺の魔法訓練が行われていた。


「それでは、今組み立てた魔力を一斉に空へ――」


 シルヴィアの声に合わせて、俺たちは両腕を天へと伸ばした。

 すると、その手のひらから可愛らしいお星さまが空へと昇っていく。


「成功よ!」


 嬉しそうにシルヴィアが言った。

 魔法の星は日光の下ではよく見えないけれど、夜間であれば綺麗に輝いただろう。


「これなら、建国祭で披露するのに十分なクオリティーだわ」


 若いシルヴィアから魔法を習う中年や初老の恰幅のよいおじさんたちの瞳は、真剣そのものだった。

 何せ、必要に迫られている。


 ことの始まりは、1カ月前に行われた大商人への爵位授与だった。


 国の伝統では、毎年夏に行われる建国祭で、その年新しく爵位を授与された者が、国王に魔法花火を披露することになっていた。

 貴族の親から爵位を引き継ぐ者にとっては、何てことない行事の一つである。彼らは子どもの頃から魔法の教育を受けているから。


 それが、商人に爵位を与えたことで問題になった。


 魔法花火というのは、地球のもので例えると、花火とLEDイルミネーションが混ざったような見せ物だろうか。


 それなりの生活魔法なら誰でも使えるこの世界で、簡単な魔法花火は子どもにも使える程度のものだ。日本の夏にスーパーマーケットで買った手持ち花火をやる感覚で、庶民の子どもが遊んでいる。


 しかし、女王陛下の前でとなると、ちゃちなものは見せられない。

 しかも、俺たちと並んで、普通の貴族の跡取りたちも魔法花火を献上するのだ。

 子どもの頃から魔法の訓練をしてきた貴族の跡取りたちと比べられて、あまり悪目立ちはしたくなかった。


「私も去年、公爵に就任した後にやったけど、これくらいできていたら大丈夫だと思うわよ」

「ありがとうございます。レヴィントン公爵様」


 練習を終えると、おじさんたちは礼を言いにシルヴィアの前に集まった。

 彼らを代表して話しているのは、以前にカカオ豆の購入でお世話になったブリューノさんだ。


「アレンさんも、ありがとうございました。あなたがシルヴィア様に伝手を持っていたおかげで、我々一同、命拾いしましたよ」

「おかげで何とか形になったものができそうです」

「女王陛下の前でこれをやるのかと思うと今から脚が震えますが……」


「大丈夫。自信を持っていきましょう」


 おじさんたちは次々と感謝の言葉を述べて帰っていった。


「ありがとう、シルヴィア。すごく助かったよ」

「ううん。いつも私がアレンに助けてもらっていたから。これで少しでもお返しできたなら嬉しいわ」


 そう言ってシルヴィアはほほ笑んだ後、もう一度真面目な表情に戻って、


「式典の本番では……文句をつけたい人は何をやっても批判してくるでしょうけど、自信を持ってね。あなたたちの魔法は、どこに出しても恥ずかしくない仕上がりよ」


 と、励ましてくれた。


 俺たちが与えられた爵位は、従来の小領主の地位を認めた男爵とは違って、名誉男爵とでも言うような、土地を持たない爵位だけのものだった。


 でも、王宮からの扱いは、他の土地持ち男爵と同格になる。

 そのため、俺たちは旧来からの貴族の一部に睨まれることになった。


 シルヴィアの言う通り、俺たちが何をやっても悪く言う人は言ってくるのだろう。でも、あまり無様なものは見せられない。


 ――頑張るぞ! 


 と、俺は心の中で気合を入れた。

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