拗ねる女王陛下4

 街は人でごった返していた。

 少数民族らしき見慣れない格好の人々や、俺の故郷でもある東の国の商人らしき人もいる。


「賑わっていますね」

「20年ほど前に、東の道を塞いでいたモンスターの討伐が完了してね。以来、ここゴルドウェイは急速に発展し続けているんだ」


 と、同行するバルバストル侯爵が説明してくれる。

 今日は彼と付き添いの文官さん、護衛の人とでゴルドウェイの街を歩いて回っていた。


「そうですね。ラントペリー商会がロア王国に本格的に進出できたのも、交易路が安定したからでした」

「ああ、君の家は東の国の出身だったね」

「はい」


 昔の交易はモンスターを避けて商品を運んでいたから、今よりずっと大変だったそうだ。それが、近年モンスターの討伐が進んで安全に移動できるようになった。結果、諸外国や少数民族との交易が増えて、商業が急速に発展していた。


「交易で社会が豊かになるのは良いことですけど、この街は何だかカオスって感じがしますね」


 街はとにかく騒々しかった。

 今思い返すと、日本の都市ってものすごく整然としていたんだな。

 こっちは色々と散らかっているイメージだ。


「商人が来て税収が増えるのはありがたいのですが、言葉の通じない者の行き来が多くなって、トラブルも増えました」


 と、案内役の文官さんが説明してくれる。その横で――。


「ちょっと、お前、そこはトイレじゃないって言ってんだろ!!!」


 と、大声で叫ぶ商人の声が響いてきた。


「……たしかに、色々と大変そうだね」


 侯爵が苦笑いしている。


「言葉が通じなくて困っている者が詐欺に遭ったり、値段交渉で勘違いが起きてトラブルになったり、何かと混乱することが多いです」

「なるほどね。各地に色んな言語で案内板を立てるとか、対策してみたらどうだい?」

「それもやってはいますが、文字を読めない者もいるので。それに、色々な言語で書くとどうしても字が小さくなって、目立たないようでした」


 歩きながら侯爵と文官さんの会話を聞く。

 文字の看板を立てても役に立たなかったのか。

 それなら、分かりやすい絵で説明するとか……。


 あ、それこそ、俺の出番だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る