サー・アレン・ラントペリー
シルヴィアのレヴィントン公爵継承を祝う夜会は、女王陛下まで参加される大変格式の高いものになった。
立食形式の会場に並べられた料理は、全てレヴィントン領で制作された磁器の上に盛り付けられている。
「綺麗なお皿ね。これ、全部アレン君が描いたの?」
一緒に参加していたデュロン夫人が磁器の皿を見て感心したように言った。
「はい。全てレヴィントン領に咲くスミレがモチーフになっているんです」
「へえ……出会ってからあっという間に出世していったわね、サー・アレン・ラントペリー」
冗談めかしてデュロン夫人が言う。
俺の胸には、真新しい勲章が一つ。これによって、俺は一代限りで騎士を名乗れるそうだ。
騎士って称号だけど、文化功労者にも贈られる。地球のニュースで見たセレブっぽい人たちが貰っていたものと一緒みたいだった。
シルヴィアはちゃんと俺の働きを女王陛下に報告したらしい。
磁器を完成させたご褒美として、俺もロア王国の上流階級の端っこに加わることになった。
「アレン、来てくれてたのね! ――デュロン夫人、ごきげんよう」
パーティーの主役であるシルヴィアが俺たちのところへ来た。
「おめでとうございます、公爵」
「おめでとうございます、シルヴィア様」
「ありがとうございます、デュロン夫人。アレンも、叙勲おめでとう」
パーティーの主役のシルヴィアは、キラキラの宝石にも負けないほど輝く笑顔で俺に近づいてきた。
だが、そこにデュロン夫人が割って入る。
「ダメですよ、公爵。アレン君は私のパートナーなのですわ」
と、彼女はからかうようにシルヴィアに言って、俺の腕に身体を寄せた。
「デュロン夫人、アレンは今回の件で私に協力を――」
シルヴィアがムッとした様子で言い返す。
何だか女性の争いに巻き込まれたみたいになってきた。
焦りだす俺のところへ、さらに――。
「おぉ、アレン・ラントペリー! そなたも来ていたのじゃな」
かわいらしく高い声で、ど派手な真っ赤なドレスをまとった女王陛下まで近づいてきた。
「なんじゃ、お主ら。アレン・ラントペリーを巡って争っておったのか? 残念じゃが、今後、この者の才覚は余がもらうぞ」
「……なっ、へ……陛下!?」
女王陛下の爆弾発言に、周囲の貴族がポカンとした顔でこちらを見た。
「優れた芸術家を抱えていることは、諸外国の王族にも誇れるからの。アレン・ラントペリー、今度、余の肖像画を描きに王宮へ来るがよい」
女王陛下の言葉に、周りから「おおー」と声があがった。
「陛下の肖像画を描いた実績を積めば、ラントペリー氏の名声はさらに増すだろうな」
「今の内に私も絵の依頼を予約しておこうかしら」
「急いだ方がいいぞ。そのうち一人じゃ手が回らなくなって、本人じゃなく弟子に描かれるハメになるからな」
ザワザワした周囲の声が何となく耳に入ってくる。
――俺、モテモテだな……。
「さらに強力なライバルが出現しましたわね」
「アレンばっかり何でこんなにモテるのよ」
デュロン夫人とシルヴィアが呆れていた。
「アレン・ラントペリー氏、おモテになるなぁ」
「しかし、あれだけ高貴な方に言い寄られていたら、普通の娘は近寄れませんわよ」
「ふーむ、彼はこの先、ご婦人方の愛人として社交界を賑わしていきそうですな」
ちょっ……一部、外野から聞き捨てならない台詞が聞こえてきたんだが。
俺、商会の跡取り息子だから、結婚必須なんだぞっ。
「うーん、ラントペリー商会も大変そうだね。こうなると、裕福な商会の跡取りでも、結婚したいという女性は現れにくいかもしれない。高貴な女性に睨まれるのは恐ろしいからね」
いつの間にか俺の近くに来ていたバルバストル侯爵がボソリと言って、
「アレン君は、私のお仲間になりそうだね」
と、ニヤリと笑った。
「……バルバストル侯爵は女王陛下のお気に入りでマダムキラーで結婚もせずに浮名を流してるじゃないですか。俺に同類になれと?」
「ふふ、よろしくね」
イケメン女たらし侯爵に同類認定されて俺が頭を抱え込んでいると、
「うむ。バルバストル侯は余の子犬、アレンは余の子猫じゃな。どちらも王国のため、励むがよい」
と、16歳女王陛下がわけのわからないことを言ってさらに場をカオスにしていた。
前世で独身だった俺の結婚は、こっちの世界でも前途多難になりそうだった。
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