レヴィントン公爵家の継承問題6
レヴィントン公爵領の山の中。
俺は<神眼>を活用して磁器の材料を探すことにした。
「こんな山間部でなく、海沿いの方に街も人も集中していて賑やかなのに」
と、同行するシルヴィアが言う。
「磁器の材料探しだから、岩山がベストなんだよ」
答える俺の手にはスケッチブックと絵筆があった。
俺は水彩画の道具を持って、レヴィントン公爵領の山々を描いてまわっていた。
《レヴィントン公爵領西の山
レヴィントン公爵領の山の1つ。美味しいキノコが採れる》
こんな感じで、土地の情報が出るのは検証済みだ。
ただ、風景画で対象をそれと分かるように描くという<神眼>の発動条件を満たすのは、人物画よりだいぶん手間がかかった。白黒の鉛筆画では大変だったので、今回は水彩画にしていた。
「材料探しなのは分かっているのだけど……。あなたに風景画を描いてもらえるなら、もっと良い場所があるのに、何かもったいない気がしてくるのよ」
殺風景な山ばかり俺が描いているのを、シルヴィアは残念そうにしていた。だが――。
「これがあの山? ……なぜかしら。あなたが描くととても素敵な場所のように見えてくるわね」
俺の描いた水彩画を見ると、彼女は目を丸くして、驚いたように絵と実際の景色を見比べた。
どこにでもある田舎の風景も、荒涼とした岩場も、それはそれで魅力のあるものだ。
「不思議ね。あなたの絵を見た後に実際の風景を見直すと、どこにでもありそうだと思っていた景色がちゃんと見分けられて、私にも良さが分かる気がするわ」
シルヴィアはキラキラした瞳で、俺が描いたのと同じ角度から山の景色を眺めた。
日傘の下の彼女の髪の毛が風に揺れている。
前世のアニメとかで、最初そんなにファンのいなかったキャラを有名絵師さんがイラストに描いてバズらせると、皆に良さが分かって人気になるとか、そういうのに近い感覚なのかなぁ。
「そっか。絵にすれば、シルヴィアと同じものを共有できるんだね」
同じ場所にいても、同じ物を見ても、考えているのは全然別のことっていうのが人間の常だと思ってたけど。
アニメだって、同じキャラを見ていても、人によって感じ方は違う。でも、二次創作で見せられたキャラの一面が分かったときは、その感覚を、俺もあのときいいね!を押していた他の人たちと共有してたのかな。
「そうね。いい天気だし、ウチの領地も捨てたもんじゃないわね」
緑の濃い山の上を、雲が流れていく。
俺はたくさんの絵を描いて、シルヴィアと一緒に景色を眺めた。
そうこうしている内に――。
《レヴィントン公爵領東の岩山
カオリンが豊富に採れる。磁器の生産に最適》
「うおっ!」
俺はついに当たりを引いたのだった。
俺はその岩山で採った白っぽい石を砕いて持ち帰った。
これを使って、錬金術師ヤーマダさんに磁器を試作してもらおう。
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