レヴィントン公爵家の継承問題5

 その日の夜、俺はアトリエでスケッチブックを広げた。


 磁器か。

 ご飯モノを描くのが得意な絵師さんに憧れて、真似して描いてたときがあったなぁ。

 すっごい美味しそうな食べ物の絵、アニメのジ〇リとか、ゲームにも飯が美味しそうなのいっぱいあったよな。


 その中に出てきた高級そうな食器を思い出して描けば、<神眼>で何か出るかもしれない。


 俺は思いつく限りの皿やポット、ティーカップなどを絵にしてみた。

 すると――。


《マイセン風の食器

 焼き物は大きく陶器と磁器に区別され、材料も異なる。磁器の場合は、カオリンと呼ばれる陶石を砕いたものに水を混ぜて粘土として使う。また、陶器よりも高温の、約1300度で焼成する》


 よっしゃ。

 しっかりと情報が出たぞ。


 材料が土ではなく陶石、石だったのか。

 多分、ヤーマダさんの磁器の制作がうまくいってなかったのは、材料を粘土だと思い込んでいたからなのだろうな。


 とすると、俺の役目は磁器作りに必要な陶石を探し出すことか。

 陶器と同様に形を作って焼く工程は、門外漢の俺より、錬金術師のヤーマダさんが知っているだろうし。


 俺は陶石を探すことにした。



* * *



 翌日。

 レヴィントン公爵邸にシルヴィアを訪ねた。

 材料となる陶石を公爵領で採取して、磁器が作れるのがベストだろう。


 シルヴィアは公爵邸の広い庭で剣と魔法の訓練をしていた。


「その調子です。結界を維持したまま、攻撃魔法も同時に展開して――」


 いかにも強そうなコワモテの先生につきっきりで指導されて、シルヴィアは訓練に集中していた。

 俺は少し離れてその様子を見ながら待つことにした。


「うっ……」


 シルヴィアはしばらく先生の言う通りに魔法を展開していたが、2つの魔法の同時展開は難しいらしい。

 攻撃魔法に集中すると、シルヴィアの結界が霧散した。


「ハア……ハア……」


 荒い息を整えながら、シルヴィアはふとこちらを振り返って俺の存在に気づいた。


「アレン、どうしたの?」

「訓練中にすみません。――女王陛下からの課題、経済的な成功の方でアイデアが浮かんだので、お伝えしに来ました」

「ホントっ!??」


 興奮したようにシルヴィアは俺のすぐ近くまで駆け寄ってきた。


「い……いえ、まだアイデア段階ですので、ものになるかはこれからですが……」

「そっか。先走っちゃった、ごめんね」

「いえ。それで、事業に使う材料が、公爵領で採取できるのがベストだと思いまして。レヴィントン家の領地を見て回りたいと思うのですが、許可をいただけますか?」

「もちろんいいわよ! ――それなら、私も領地に戻ろうかしら」

「いいのですか? 武術大会の稽古があるのでは……」

「王都で稽古だと土地が狭くて、周囲に気を遣いながら魔法を使わないといけないから。先生と、田舎で訓練しようかと話していたところなの」


 と、シルヴィアが言うと、近くにいたシルヴィアの先生も頷いていた。


「そうなのですね。では、ご一緒させてください」

「ええ。訓練以外の時間は、私もあなたについて回ろうかしら。領主の娘がいると色々便利だと思うわよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 俺はシルヴィアと一緒に、ロア王国西部にあるレヴィントン家の領地へと向かった。

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