レヴィントン公爵家の継承問題4

 ラントペリー商会の応接間。

 俺は企画を持ち込む来客の対応をしていた。


「え~、ですからこの事業に金貨100枚を出資していただけましたら、半年後には2倍にしてお返しを……」


《ピーター 43歳 詐欺師

 資産家のところへ嘘の事業話を持ち込んで金をだまし取っている》


 面会中、俺は来訪者の似顔絵を描きながら話を聞いていた。


 ――《神眼》能力で危ない奴をはじけるのは便利だな。


 ここ数日で会った中に、詐欺師は4名いた。

 他、持ち込まれた企画の内容が甘かったものが11名。

 そうそう魅力的なアイデアは見つからないらしい。


「次が本日最後のお客様です」


 店の従業員に案内されて入ってきたのは、小柄でちょっと太った男性だった。見た感じ、インドア多趣味っぽい雰囲気がある。前世の知り合いにもこんな感じの人、いたなぁ。


「初めまして。私、錬金術師をしておりますヤーマダと申す者です」


 錬金術師のヤーマダさんは、持ち込んだ木箱から1枚の皿を取り出して俺に見せた。

 白地に青い顔料で絵が描かれた大皿だ。

 それは、パッと見だと、前世の中国や日本で作られていた磁器と呼ばれる焼き物に似ていた。しかし、よく見ると表面がザラザラしており、磁器のような艶がなかった。


 たしか、皿やお椀のような焼き物って、陶器と磁器の2種類に分かれるんだよな。

 表面がザラザラした厚手のものが陶器で、ツルっとした光沢があるのが磁器。


「ご存じだと思いますが、我が国を含め現在の中央大陸諸国家では、東大陸の磁器が飛ぶように売れております。貴族やお金持ちには磁器のコレクションを自慢にしている方も多く、良い品には買い手が殺到するそうです」


 と、ヤーマダさんは説明する。

 そういえば、日本で美術館に行ったときに、そんな解説を読んだ気がするなぁ。

 日本の伝統工芸品に、有田焼とか九谷焼とかがあって、海外にも輸出されていたって話だった。


「もし、この磁器をロア王国内で生産できるようになれば、莫大な利益が生まれるでしょう。それに、国外に金銀が流出することも減りますから、国益にもなります」

「なるほど。それで、この皿はあなたが再現した磁器のレプリカということですね」

「はい」


 俺はもう一度彼が持ってきた皿を見た。

 その皿は、しかし、表面のザラザラした感じ、磁器と呼べるものではなかった。


「未だうまくいかず試行錯誤を繰り返しております。材料となる陶土に秘密があるのだと考え、各所を旅してサンプルになる土を探していたのですが、旅費もなくなり、このままでは研究を続けられなくなりまして……」

「うん。着眼点は素晴らしいと思います。成功すればリターンが大きいですし」


 っていうか、思い出してみると、磁器の制作って、前世の異世界ラノベで読んだことがあったわ。主人公が磁器を作り出して大儲けするんだよなぁ。

 ああいうネタが書かれていたってことは、磁器の生産は再現できる可能性が高いんじゃないだろうか。やってみる価値はありそうだ。


「いいアイデアですね。ぜひ協力させてください。出資だけでなく、私も研究に参加したいです」

「あ……ありがとうございます! よろしくお願いいたします」


 大喜びするヤーマダさんと握手を交わして、俺は磁器の生産に取り組むことを決めた。

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