レヴィントン公爵家の継承問題3
「大変なことになったね。大丈夫、シルヴィア?」
皆が去って静かになった部屋で、俺はシルヴィアに声をかけた。
「むしろやる気が出たわ。このままウチのご先祖様のカッコウ被害者リストを増やしていくよりは、ポジティブに行動できるもの」
「あはは、そりゃ、そっか」
難しい条件だけど、シルヴィアは前向きそうだ。
「それで、経済的な成功って、シルヴィアは心当たりあるの?」
「ううん。そっちの案を探しつつ、春の武術大会に向けて訓練するわ。10位には当然入れるみたいな言い方しちゃったし、無様な負け方をするわけにいかないから」
と、シルヴィアは答えた。
そうだな。武術大会10位も簡単じゃないだろうからね。
「経済の方の案は、俺の家は商人だし、父とも相談して何かないか考えてみるよ」
「ありがとう。あなたがそう言ってくれると、心強いわ」
と、シルヴィアは心底嬉しそうな表情をした。
うわぁ。ここまで頼りにされてると、何か案を出さないと悪いよな。えーっと……。
とりあえず、父さんに相談してみよう!
* * *
家に帰った俺は、父にレヴィントン公爵邸での話を伝えた。
「そうか。シルヴィア様を女公爵に。うーん……」
話を聞いた父はあごに手を当てて難しそうに考え込んだ。
「これが子爵家や男爵家くらいなら、ウチが支援して王家に寄付金を出すことで認められるのだけどな。公爵家の継承に影響する額の寄付となると、東の国のラントペリー本家でも大変な額になる」
ふうむ。最終的にお金で解決する手段もあるにはあるのか。でも、ラントペリー本家がロア王国の一貴族のためにそこまで出してはくれないだろうし。他の有力商人を探すとしても、それだけ出してくれる見返りをどうするんだって問題が出てくるよなぁ。
「商人に出させるのではなく、レヴィントン家で事業を起こす方向ではどうでしょう?」
「……そうだな。お前も以前に行ったバルバストル侯爵の集まりでは、新しい事業案などが毎回話題に出てはいるが……それだけ皆に探しつくされているということでもある」
ああ、そうなるか。
コーヒーを輸入していたサブレ伯爵も、事業がうまく行くかでかなりヒヤヒヤしてたもんなぁ。
「お前が以前に成功させたコーヒーの普及事業をレヴィントン家にまわせていたら、あるいは……」
「いえ。あれは小規模な事業主がたくさん参入したことでブームが作れたんです」
たしか、喫茶店って、日本でもスター〇ックスみたいなチェーン店が普及する前に、個人経営の店から広がっていったんだよな。
ロア王国は地球と制度も商慣習も違うから、いきなりチェーン店を作るのはリスクが高すぎると思う。
「……そうか。こういう商機を見る眼力は、私よりアレンの方がありそうだな。お前が思いつかないことで、私が力になれるのかどうか」
相談していく内に父が自信なさげなことを言い出した。
「とんでもない! 俺一人の頭で考えられるアイデアなんてたかが知れているんです。色んな人からアイデアをもらわないと……」
俺なんて前世知識でちょっと良いところを見せれただけだ。外国にラントペリー商会を進出させて何年もかけて地盤を作ってきた父がいなければ、俺が活躍することもなかったさ。
「アイデアをもらう? ――それだ!」
俺の言葉に、父は何かひらめいたように言った。
「私の仕事の手伝いにもなるが、お前に来客の対応を任せよう」
「来客?」
「ラントペリー商会に出資して欲しいと言ってな、小規模な商人や研究者などが、事業のアイデアを売り込みに来るんだ。たいていは詰めの甘いプランで、中には詐欺のようなものもある。良いアイデアの可能性は低いが、お前の感性なら何か拾えるかもしれんぞ」
「おお、それは、是非やらせてください!」
アイデアの売り込みか。びっくり箱みたいなものだろうけど、いいかもしれないな。
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