レヴィントン公爵家の継承問題1

「最近忙しいみたいね。夜会でマダムたちがアレンに会えないと嘆いていたわよ」


 久しぶりにシルヴィアがウチの店を訪れた。

 入り口まで彼女を迎えに行く。


「すみません。ここ最近は家業に専念していました」


 肖像画入りペンダントの注文もあったし、父の仕事を手伝って帳簿の確認をしたりもしていた。

 ありがたいことに(?)父は俺を出来の良い息子だと思っているみたいで、店の重要な帳簿もバンバン見せられていた。


「そうなの? 商人って貴族と違って働き者が多いわよね。無理しないでね」


 心配そうにシルヴィアが言う。

 彼女を客室に案内して、扉を閉めた。


「ありがとう、シルヴィア」


 部屋に入ったので敬語をやめて礼を言うと、シルヴィアの頬が少し赤くなった。

 もう何度も会っているけど、彼女のこういう反応はいつまで経っても初々しい。


 シルヴィアと向き合ってソファーに座ると、メイドのエイミーがお菓子とコーヒーを持ってきてくれた。


「今日はあなたにお願いがあって来たの」


 コーヒーを一口飲むと、シルヴィアが話し始めた。


「3日後に私の家に来て欲しいの」

「シルヴィアの家? 後継者問題かな」

「うん」

「跡取りになりそうな人、まだ見つかってないんだっけ?」

「えぇ。血統鑑定でダメになる人が予想外に多くて」


 そう言って、シルヴィアはため息をついた。


「血統鑑定魔法って高価な触媒しょくばいを使うから、名家の跡取り以外はめったに鑑定しないもんね」


 レヴィントン家でも嫡流以外は鑑定していなかったんだろうな。


「やっとのこと、4代前からの男系で続いている人を鑑定で確認できたの。でも、その人は外国に移住していて。すでにそちらで生活を安定させているから、『今から不慣れな土地に行って貴族家など継げない』と断られてしまったわ」

「ありゃ、そっか」


 難しいな。断られるパターンもあるのか。


「それでね、女王陛下から、レヴィントン家の今後について話し合いたいと連絡が来たの」

「そう……もしかして、3日後に来いっていうのは、その話し合いに顔を出せってこと?」

「うん。あぁ、心配しないで。女王陛下が直接来るってことじゃなくて、事前に陛下の側近の方とお話しておくのよ」

「なるほど。ものすごく大事な話し合いじゃないか。部外者の俺なんか呼んでいいの?」


 シルヴィアの力にはなってあげたいけど、俺、場違いじゃないかな。


「あなたがいてくれたら、私は心強いわ。あなたって、なんだかんだ知恵者だし」

「知恵者?」

「色々聞いてるわよ。デュロン夫人を新しいビジネスで助けたでしょ。コーヒーを普及させるところは私も近くで見ていたし。実家の商会でも新商品をヒットさせたそうね。これほどの天才はそうそういないと思うわよ」


「えぇっと、それは……」


 新しい発想というか、地球で得たアイデアを流用しているだけなのだけど。うっ……そう考えると罪悪感が……。


「だから、あなたが力を貸してくれるとすごく心強いの」


 そう語るシルヴィアの瞳が、キラキラと輝いて俺を映す。


 ――もの凄いプレッシャーだな。


 あー、でも、ここまで期待されて協力しないのも悪いよなぁ。レヴィントン家がどうなるか、俺も気になるし。


「……分かった。話だけは聞かせてもらうよ」

「本当? 嬉しい、ありがとう!」


 何はともあれ事情を聞いて協力できる範囲で協力しよう。

 うまい解決策が見つかるといいんだけどなぁ。

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