不正の証拠を探せ

 シルヴィア様を見送ってアトリエに戻った俺は、スケッチブックにクレマンの似顔絵を描いてみた。

 奴のことは、リアーナとの浮気現場で目に焼き付いていたから、思い出すだけで正確に描くことができた。


《クレマン 21歳 公爵家の偽りの跡取り

 母親は元娼婦、父親はその客。義父はレヴィントン公爵の弟。血統鑑定証の偽造は密かに母親が行った》


 クレマンにレヴィントン公爵家を継ぐ資格がないことは確定したな。偽証を暴くために、もう少し情報が欲しい。


 しかし、記憶だけでクレマンを何枚描いても、追加の情報は得られなかった。本人を直接見て描けば新たな情報が増えるだろうけど、クレマンに肖像画のモデルを頼むのは不可能だろう。

 クレマンの血統鑑定証を偽造したのが奴の母親なら、そちらを狙う方がやりやすそうだ。彼女は現在、公爵家の別邸でクレマンと暮らしているらしい。それなら、社交界にも顔を出しているだろうな。


 クレマンの母親の情報を集めよう。デュロン夫人に何か知らないか聞いてみるか。



「クレマン公子の母親? ああ、最近、社交界に馴染もうと必死になっている方ね」


 デュロン夫人に話を聞きに行くと、そのように教えられた。


「公爵になることが決まっている息子はともかく、その母親は上流階級に受け入れられていないようね。息子のクレマン公子はそれほど親孝行するタイプじゃないみたいだし。望みの夜会の招待状をもらえなくて苦労しているみたいよ」

「なるほど」

「……でも、うちの舞台はよく見に来ているのよね」


 と、デュロン夫人は複雑そうな顔をして言った。


「けっこう熱烈なファンになってくれているみたいなの。社交界で彼女の相手をしたいとは思わないけれど、劇場にとってはいいお客様だわ。彼女がどうかしたの?」

「彼女に直接会って、話をしてみたいんです」

「そうなの。劇場で販売しているあなたの版画のことは、彼女も当然知っているはずよ。彼女が来ているときのボックス席に行ってみたら? あなたの絵を見せれば喜んで話してくれると思うわ」

「ありがとうございます。その手でいってみます」


 俺はすぐにデュロン劇場へ向かった。



 劇場の支配人に聞くと、ちょうど次の公演を見にクレマンの母親が来ているようだった。彼女のいるボックス席へ向かう。


「私、こういう絵を描いている者でして――」


 スケッチブックに何枚か描いていた役者絵を見せると、クレマンの母親は喜んで俺と話をしてくれた。


「劇場によくいらして下さっている方へのお礼に、簡単にですが似顔絵を描かせてもらっているんです。よろしければあなたの絵も描かせてください」


 そう言うと、クレマンの母親は喜んで俺に絵を描かせてくれた。


《ロバータ 46歳

 クレマンの母親。レヴィントン公爵の弟の妻。一人息子の父親は、彼女の夫ではない。それを隠すために、ギャンブル中毒の教会魔術師に金を払って偽造の鑑定書を書かせた》


 なるほど。そうやって、クレマンがレヴィントン公爵家の血を引いている血統鑑定証を手に入れたのか。鑑定証を信頼して、レヴィントン公爵家は血統の再検査をしなかったんだろうな。

 でも、当時ギャンブル中毒だった教会魔術師が、そのまま無事に仕事を続けられたとは思えない。そこを調べれば、鑑定書が怪しいことを証明できそうだな。


 そう予想して、次に教会の魔術師を調べると、該当する魔術師が横領で教会から破門されていることが分かった。


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