妹と遊ぼう2
しばらくして、メイドのエイミーに手伝ってもらって、妹は大きな箱を俺の近くまで持ってきた。
箱の中には刺繍道具と、フランセットの失敗作らしい作品が何枚か入っていた。お世辞にも上手とは言えないが、妹は8歳だ。単に年齢に対して刺繍が難しすぎるだけかもしれない。
「気にするほどかなぁ。だんだん上手になればいいんじゃないの?」
「だって、お友達のメアリーちゃんは、もっと上手いもん」
フランセットは恥ずかしそうに顔を覆った。
たまたま器用な子が友だちにいたのかな。もしくは、親が手伝っている可能性もある。
「俺もちょっとやってみようかな」
道具はそろっている。
俺は箱から針と糸を取り出して、妹の失敗作のとなりに、チクチクと針を通していった。
すると、布の上に見事な花畑が、すいすいとできあがっていく。
「……ちょっと、お兄ちゃん!? なにこれ、なにこれぇ!??」
フランセットは俺の刺繍を見て、意味が分からないというように目を丸くした。
そうか。俺の持つスキル<弘法は筆を選ばず>は、平面に描くものなら何にでも対応できる。刺繍も能力の影響下なのか。
「フランセット一人で刺繍するのが難しいなら、お兄ちゃんが手伝おうか?」
たぶん、ご近所のメアリーちゃんもお母さんかお姉さんが刺繍上手なんだろう。だが――。
「ダメっ! これは、私が自分でやらなきゃダメなのっ」
と、妹は怒ってしまった。彼女はかなり真面目な性格だったらしい。
「ごめん、ごめん。でも、フランセット、困ってるし……」
「ズルしちゃいけないんだよ。それに、アレンお兄ちゃんのは上手すぎてすぐバレるよ」
「そっか……」
俺はなおも、もうちょっと下手な感じにしてフランセットの作品に見せられないかと刺繍をしてみたが、何度やっても完全にプロの犯行みたいなものになってしまった。
ゲームアプリで俺がもらった能力は、オンオフできないタイプだったらしい。
――考え方を変えて、妹が自分の手で解決できる手段を探すかな。
「……そもそも、刺繍っていうのが良くないんじゃない? 難しいし、他の子も刺繍を出すなら、上手下手が露骨に分かってしまうよ」
「言われてみればそうかも。でも、女の子の定番がししゅうなんだもん」
「もっとアイデア勝負で、他の人が見たことがないものを作ったら、誰とも比べられないよ」
「アイデア? でも、それを思い付くのが大変じゃない?」
「それもそうか」
うーん。あの展示会、何を出すかは自分で決められるし、それなりに見栄えのするものを作っておけば、何とかなりそうだけど。前世の知識で、何かいいのないかな。
そうだ……!
俺は白紙の紙を1枚とって、正方形に切った。
その紙を何度も折って、形を作っていく――。
「はい、鳥に見えるでしょ?」
フランセットの手のひらに、折り鶴を1つ乗せた。
「すごい! ただの紙だったのに、どうやったの!?」
フランセットは手品でも見たかのように、興奮して目を輝かせた。
こっちの世界には、折り紙に似たものがない。だから、かなり斬新に見えると思う。
考えてみると、折り鶴を最初に発明した人って天才だよなぁ。
「えっとね、昔どこかにいた天才が、紙から鳥を作る方法を思い付いたんだ」
「そうなの? お兄ちゃん、物知りだねぇ」
「たまたまだよ。――折り紙に色をつけたら、もっとキレイなのができるかな。紙に絵具で色をつけてみよう。折り方も教えてあげるから、一緒にやろうね」
「うんっ!」
俺は夕食までの時間を、妹と折り紙で遊んですごした。
後日、フランセットの折り鶴から、王都の子どもたちに折り紙が流行りだした。俺も前世の記憶を引っ張り出して風船やヨットなど作ってみたが、やがて、この国独自のさまざまな折り方が発明されていくのだった。
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