若手人気女優の肖像画

 夜会の日の事件から3週間が経った。


「アレン様、今日もよろしくお願いします~」


 俺のアトリエに、華やかな女性が3名入ってきた。

 彼女たちは王都で人気の劇場の若手女優たちだ。


「よろしく。前と同じで、ある程度は動いてもらって大丈夫だから、くつろいでいてね」


 俺はテーブルの上に見栄えのするフルーツやお菓子を置いて、その前に彼女たちを座らせた。


「お菓子は自由に食べていいよ」


 キャンバスの前で筆をとりながら、俺は彼女たちに言った。


「わぁ、ありがとうございます。流石ラントペリー商会さん、すごく美味しいお菓子だって友だちにも自慢したんですよ」

「ほんと、幸せ~」


 明るく楽しそうに笑ってお喋りをするモデルたち。若い女の子がお菓子を口にして見せる媚びのない素直な笑顔。自然に口元がほころぶ瞬間を、俺の筆はたやすく捕らえることができた。


 母が約束通り良いモデルを連れてきてくれたので、ここ3週間の俺は楽しく絵を描かせてもらっていた。


 絵から伝わるモデルの溌溂はつらつとしてポジティブな感情が、画面をいろどる。

 見る人の気持ちを明るく楽しませるような絵が描きたかった。その、俺の願望が叶っていく。




「完成っと」


 筆を置いた俺が呟くと、モデルたちは席を立ってこちらに近づいてきた。


「描きあがった絵、見せてください」


 彼女たちは興味津々にキャンバスを覗き込み、目を丸くして俺の絵に釘付けになった。


「うわぁ。これが私たち?」

「人生で1番感動したかも」

「すごく嬉しいです。こうやって、1番綺麗なときの私たちが、老いることなく絵の中に残るなんて……アレン様に感謝しなきゃいけませんね」


 モデルたちのキラキラした瞳は、昔の俺が神絵師さんの作品を鑑賞していたときと同じだった。良い絵は見るだけで心が弾んで明るくなるんだ。その感動を自分が届けられてると思うと、嬉しくて舞い上がりそうだった。


「あ、そうだ。モデルをしてくれたお礼を渡すね。お金の封筒と別に、ちょっとだけプレゼントも付けるから、良かったら使って」


 そう言って、俺は彼女たちに謝礼を渡していった。


「はい、イレーナには香水」

「うわぁ。これ、ラントペリー商会の超人気商品ですよね。私、売り切れで買えていなかったんです」

「フランカにはフルーツ飴。色が綺麗でしょ」

「ありがとうございます。劇場での歌唱で喉を傷めないように、よく飴を食べるので、すごく助かります」

「ユリーには髪飾りをあげる」

「素敵! ありがとうございます。こういうアクセサリーを探していたんです」


 3人それぞれにピッタリ欲しいものを渡したので、皆とても喜んでくれた。

 何で知ってるかって?

 俺には<神眼>という鑑定能力があるからね。


《イレーナ 21歳 女優

 お洒落が好きで流行に敏感。ラントペリー商会の新作の香水を欲しがっているが、品切れで手に入っていない》


 こんな感じで、絵を描くたびに俺の<メモ帳>のページが増えていった。

 手に入る情報は、俺にとって役立つものが優先されるらしい。また、同じ人を複数回描くと、違う情報が追加された。


「ありがとうございます。こんな楽しい仕事でお土産まで貰えるなんて」

「知り合いにラントペリー商会の素晴らしさをどんどん宣伝しておきますね」

「良かったら、私たちの舞台にも遊びに来てください。アレン様なら、公演後の楽屋にも招待しますので」


 モデルたちはニコニコして帰っていった。



「ふぅ。……楽しい」


 俺がゲームアプリで獲得した画力チートは本物だった。今の俺は、前世では想像しても描き切れなかった人物の細かい特徴や魅力を、思い通りに表現できた。

 ろくな説明なしにクソゲーアプリによって連れてこられた変な異世界だけど、かつてどんなに願っても手に入らなかった画力が自分のものになった。この大きな喜びの前には、全て水に流してクソゲーアプリに感謝してもいいと思ってしまいそうだった。



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