第1話-6.質屋の店主、事情を話す
「こっちの世界って……」
フィオナは目を丸くして、「あなたが異世界から来たって話、本当だったの!?」
トワルは怪訝な顔で、
「何驚いてるんだ? アンブレさんから聞いたんじゃないのか?」
「聞いてはいたけれど、てっきり私を引っかけるための冗談かと……」
「あの人が人を騙すのに異世界とか突拍子もないこと言うタイプに見えるか?」
言われてみれば確かに、とフィオナは思った。
「ま、冗談だと思うのは無理もない。俺だって当事者じゃなきゃ信じないような話だからな」
「じゃあ、最終的には元の世界へ戻りたいの?」
フィオナがそう尋ねると、トワルは少し考えてから、
「どうかな。その辺については俺自身よくわからない」
と、どこか寂しげに笑った。「元の世界には正直もう特に思い入れとか望郷の念はないんだ。こっちに飛ばされたのが小さい頃だったから記憶も曖昧だし、過ごした時間ももうこっちに来てからのほうが長いからな。ただ、一体どうして俺がこの世界に召喚されたのか、そして元の世界へ戻る手段があるのかってことは知りたいと思ってる。単純な知識欲というか、俺自身の中で納得したいからだが」
「………」
フィオナはどう言葉を掛けるべきか思いつかなかった。
トワルは続けた。
「二つ目の理由は、師匠の行方を捜すためだ」
「師匠?」
そういえば、とフィオナは思った。
これまで会話の中で師匠という言葉が度々出ていたが全く姿を見ていない。
この店もトワル一人で回しているようだったし。
「俺の師匠でこの店の先代だった人はオーエンさんというんだが、オーエンさんは十年前にラニウス遺跡の調査があったときの調査隊の一人でね。遺跡で見つかった俺を引き取ってくれたんだ。色々とぶっ飛んだ人ではあったが俺にとっては育ての親であり命の恩人だよ」
トワルは懐かしそうに言った。「だが四年前、俺がようやくこの店の仕事を一通り覚えたって頃に、置手紙を残してふらっと出て行ってしまった。それっきり戻っていない」
フィオナが、
「四年前って、まさか」
「ああ」
トワルは頷いた。「手紙には『気になることができたからラニウス遺跡に行ってくる』とだけ書かれていた。そしてその数日後、ラニウス遺跡は大爆発を起こした」
「じゃあ遺跡の爆発事故ってあなたの師匠が起こしたの?」
「手紙の内容から考えるとその可能性は高い。普段の行いから『あの人からやりかねない』って考えた人が多かったせいもあって、今ではほとんどそれが事実として扱われているな」
「………」
普段どんな行いをしていたらそう思われるのかしら、とフィオナは思った。
トワルは溜め息をついて、
「まあ、もう過ぎたことだし事故を起こしたのが師匠かどうかはどちらでもいいんだ。それよりも気になるのは、師匠が一体何をしようとしてラニウス遺跡へ向かったのか。それを知るためにはラニウス遺跡へ行くしかない」
つまり。
トワルは自分が何故こちらの世界へ召喚されたのかを知るため、そして行方不明の師匠のことを確かめるためにラニウス遺跡を調査する資格が欲しい。
そのためにはそれなりに実績を積まなければならないし、遺跡の仕掛けを理解できるほどの知識と経験を蓄える必要がある。
そして師匠からの教えで『一度買い取ったものは最後まで自分で責任を取れ』とも言われている。
だから、伝説とさえ言われる『災いを呼ぶ死神の石』だろうが店に転がり込んできたからには中途半端に手放すつもりはない。
「……まあ、そういう訳でこっちにも事情があるんだよ。面倒な奴に捕まったと思って諦めてくれ」
トワルの言い方はあっさりしたものだったが、同時に有無を言わせない強い意志を感じさせた。
決して宝石の呪いを甘く見ている訳ではないのだろう、とフィオナは思った。
考えてみれば少年と呼んで差し支えないような男の子が一人で店を切り盛りしている時点でおかしかったのだ。
言動も年不相応に落ち着いていて、今まで相当な苦労をしてきたことがうかがえる。
アンブレからは聞きそびれてしまったが、今までどんな人生を歩んできたのだろう。
理由もわからず知らない世界に放り出されて、どんな思いをしてきたのだろう。
恐らく、本人にそれを尋ねてもきっと答えたくはないだろう。
「………」
フィオナは無言でパンケーキを口に運んだ。
それまで美味しかったはずのパンケーキが、何故かまるで味を感じなかった……とかそういったことは特になく、パンケーキは相変わらず美味しかった。
フィオナは結局そこからさらに二枚おかわりした。
結果、お腹が苦しくなりしばらく動けなくなった。
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