第1話 妄想って厄介だよ

最初に視界に入ったのは真っ白な天井だ。いつもの日々。

しかし、体中が異常に重い。

すべては夢のせいだ。もう一週間はまともに寝ていない。

さすがに気が滅入る。

夢は決まって同じシチュエーションだ。おそらく男性と思われる誰かが上にいて、自分は小さな箱の中に納まって彼を見ている。

その顔はぼんやりしていてはっきりしない。

オカルト好きなクラスメートにこの話をすれば目の色を変えて質問攻めにしてくるだろうが、そのつもりはない。理由は自分でもよく分かっているからだ。

すべてはこの体に流れる血のせいだ。それはオカルトというよりはSFに近い。


“宇宙移民”――


小学校卒業と同時に母に告げられたのは僕の遠いご先祖様が宇宙人だという事だった。寿命で消滅してしまう故郷を離れて、地球に移住した人々らしい。

そんな話を聞かされても正直ピンとこなかった。

だって宇宙人の存在なんて物語の中だけだ。

他の子達とも何ら違いは見られない。

そう思っていたのだが…。

中学に入る頃から奇怪現象に見舞われるようになった。

誰かの妄想が視覚化されるのだ。


あれを食べたい

こうなりたい

テストで100点を取りたい。


可愛らしい願望ならまだいい。

けれど、たまに欲望まみれの強いイメージが流れ込んでくる。

それはテレパシーでやり取りをしていたご先祖様の血が流れているからだと母に言われた。

そして、「心配しないで。大人になればなくなるから」

まるで大したことないみたいに言われて傷ついた。


大人になるのに後、何年あると思っているんだ!


さらに母は言った。

ご先祖様が宇宙人だって事も、その能力についても誰にも話してはいけないと…。


当然だよ。誰が信じてくれるっていうんだよ。


思わず溜息が漏れた。

それでもただ一人だけ、話してしまった事実は母には内緒だ。


ベッド脇に転がっていたスマホには9時と表示されていた。


「やべえ~後一時間しかないじゃん!」


授業のない日に慌てる事になるなんてと思いつつ、寝相の悪さが一目でわかるベッドから飛び起きて鏡の前に向かえば、15歳の少年の姿が映りこむ。

特に特徴のない顔だ。女子受けするわけでもないし、かといってスポーツ万能というわけでもない。学校ではその他大勢の中の一人でしかない。

それでも数少ない友人達とは上手くやっている。そのほとんどは名前いじりが多いが、目をつぶるぐらいには“ミライ”という音を持つ自分の名前が好きだ。


慣れた手つきで身支度を整えていく。両親とも仕事で朝早くから出かけている。

この静かな時間はホッとできた。

起きてから数分も立たないうちにクローゼットからお気に入りの服を選びだせば、再び鏡に自分を映し出す。


そこにはふんわり系のブラウスとスカートを翻す少年が立っている。

用意していたストレートヘアタイプのウイックを被れば、どこからどう見ても可愛らしい少女に早変わりする。


“ミライ”――


この名前が好きな理由はこの姿の自分でもしっくりくるからだ。


「よし。今日もバッチリだね」


一人で笑う彼…いや、彼女の瞳はキラキラ輝いていた。

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