怪盗







 お願いがあるの。

 祖母に言われて始めたのが、怪盗だった。

 盗む物は、桜色の希少で特殊な和紙で折られた千羽鶴。

 数は百。

 世界各国に散らばっているが、大半は自国に存在しているとのこと。

 祖母から居場所を教えられて、盗みを実行。


 時に、盗まないでくれと懇願されて。

 時に、仕方がないと自ら手渡され。

 時に、人でなしと憎まれて。

 時に、雇われ者と闘い。

 常に、警察に追われて。


 なぜか、祖母が持ち主に予告状を送るのだ。

 理由を尋ねると、必要なのだの一言だけ。

 祖母のことだ。

 きっと、大切なことなのだろうとわかっているが。

 老若男女問わない持ち主のあの悲しんだ、時に吹っ切れた、時に絶望した顔を見ると。


 胸が痛んだ。









(2022.5.16)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る