第26話『"最強"包囲網』
7号館での極大爆発によって、絵恋達の意識が一瞬ではあるがそちらへ奪われる。天音の方が僅かに速く戦闘の思考を取り戻したのは、技量や経験の差ではなく彼女の方が『爆発から少しだけ遠かった』という単純な『運』があったのかもしれない。
しかし戦いの中で勝機を探り続けた、天音自身の力が切り拓いた活路でもあった。
(今しかない――――!!)
天音は自身が最も得意とする術式を多重発動させ、一気に絵恋へと畳み掛ける。
火属性魔力×形成術式
『
魔力弾による爆撃を受けるが、絵恋は相反属性の魔力を長剣へと纏わせ振り抜いた。
水属性魔力×強化術式
『
水属性の斬撃によって、天音の炎弾は尽く斬り裂かれ爆散する。しかしその時既に、天音の"本命の攻撃"の準備は終わっていた。
「掛かりましたね、九重先輩……!!」
「!?」
絵恋が爆速弾を迎撃していた隙に、構築を終えていた天音の大技。撃ち放たれるは、"冷気の砲撃"。
氷属性魔力攻撃術式
『
――――天音が待っていたのは、こちらの火属性術式を絵恋が『水属性の魔力で』迎え撃つ事。そこで生じた大量の水蒸気が、
「なっ――――!?」
霧散した魔力が、彼女を捉え閉じ込める檻と化す。絵恋の身体は、氷流の内側へと完全に呑み込まれていた。身動きを封じた上、絵恋の持つ属性では氷塊からの脱出は不可能だろう。
「ッ、絵恋……!?」
天音によって絵恋が撃破され、ハルは僅かに動揺を見せていた。
「へェ……ま、あの程度はやってもらわねェとな」
対して彼女と交戦していた伊織は、当然と言った表情で軽く笑いながら刀を構え直す。
「アイツはキッチリ仕事したんだ……コッチもそろそろ、ケリ付けさせてもらうぜ」
「……本気でそう言ってんなら、そろそろ下らない出し惜しみはやめといた方が身の為よ」
そう口にする伊織へと、ハルは剣呑な視線と共にマグナムを向けた。
「どいつもこいつも……何で一本しか使ってねェってだけで、俺が手加減してると思うんだ?」
「トボけてんじゃないわよ白々しい。天堂さんとジャクソンに弟子入りしてたコトは判ってる。アンタが隠してんのは……『
言葉を切ると同時に、銃口から放たれた業炎の一撃。先程の手数を重視した速射連弾よりも、遥かに火力が引き上げられた砲弾の如き重撃だった。
咄嗟に校舎内へ飛び込み躱す伊織だったが、炸裂した爆風が全てのガラスを吹き飛ばす。そこから更に撃ち込まれた銃弾が、地を蹴り廊下を駆け出した伊織へと襲い掛かった。
「中々、鋭いな……!!」
壁を突き抜け貫通して来る弾丸の雨を、紙一重で潜り抜けながら走る伊織。しかし、このまま逃げに徹していても埒があかない。
防戦一方の状況を打開すべく、壁へと内側から斬撃を叩き込む。そしてその斬線を蹴り破り、校舎の外側へと飛び出した。その眼前に迫っていたのは、巨大な斧刃。
「はァ!?」
視界を塞ぐようなその強襲は、ハルが投げ放った戦斧だった。意表を突かれながらも、伊織は即座に一刀を振り上げ迎撃する。
退魔一刀流・『富嶽』
斬り上げられた剣撃が戦斧を寸前で弾き上げるが、ハルの動きはそこで止まらない。
ハルが
「ンなコトも出来んのかよ……!?」
「ナメんな……よッ!!」
頭上へ弾き飛ばした戦斧を、瞬間転移して来たハルが掴み再び伊織へと振り下ろす。叩き付けられた刃同士が、凄まじい剣戟音を響かせていた。
(クソ……二本目使うか……?)
ハルの空中からの蹴り下ろしを刀身で弾きながら、戦術についての思考を巡らせる。彼女の近接戦闘能力は極めて高く、戦闘が長引けば想定以上のダメージを負う可能性もあった。
依然として二刀流は
大きく距離を取った伊織は、二刀目の柄へと手を掛ける。
「……結局、新技を使うつもりは無いってコトね」
「言っとくが……別に出し惜しんでるワケじゃねェ。"
その構えにハルは苛立った様子を見せるが、伊織は隙を見せる事無く一刀の鋒を差し向けていた。
「誇っていい。
「偉そうなクチ聞いてんじゃないわよ……!!」
強化術式『
ハルはその言葉を最後に、高速移動で一気に距離を詰め肉薄する。残像が浮かぶ程の驚異的な加速で、一直線に突進して来る戦斧の刃。対して伊織は一刀青眼の構えを崩さず、もう片方の手を二刀目の柄に添えたまま。
そして、剛撃は振り抜かれる。
火属性攻撃術式
『
爆炎を纏った斧刃が届く寸前、遂に伊織の手が動いた。
掴み取られた左手の刀は、逆手のまま抜き放たれる。そしてその抜刀の勢いを利用した、柄頭の一撃が戦斧の刀身へと叩き込まれた。
退魔流・『打鐘』。
真下からの強烈な打ち上げによって、斧刃の軌道が僅かに逸れる。その刹那。伊織の右手の刀が、ブレるように
「――――…………次は……敗けない、から……」
交錯の後。ハルは途切れ掠れた声と共に、崩れ落ち倒れ込む。瞬く間に振り抜かれた剣閃、超速の峰打は彼女の身体へと確かに撃ち込まれていた。
「中々手強かった……流石でしたよ。"先輩"」
意識を失い地に伏せている少女へ、刀を収めながら伊織はそう告げる。
『時計塔南広場での戦闘、決着です!!勝者は御剣・藤堂ペア!!共にルーキーながら、生徒会主力メンバーである一条・九重を各個撃破する大健闘!!初出場の新世代が躍進していますッ!!』
◇◇◇
『そして一方こちらでは、本戦大本命天堂 蒼とその右腕スティーブ・ジャクソンが動き出しました!!応戦するは「連合」の大戦力黒乃・白幡・神宮寺、そしてルーキーの皇・空条ペア!!』
1・2号館、連結部ホールにて。
吹き抜けになっているこのエリアには、隣接館の各階同士を繋ぐ無数のエスカレーターが縦横無尽に張り巡らされていた。それらを尽く斬り崩す、無数の刃が撃ち放たれる。
無属性魔力×形成術式
『飛斬・
スティーブの連剣の軌道から繰り出される、全方位への炸裂斬撃。内壁ごと周囲を斬り飛ばさんとするその連刃に、蒼とスティーブを包囲していた五人は
「うおぉっとっと……!ねー奏、流石にちーっと停戦しない?」
「チッ……好きにしろ。認めるのは癪だが、私達だけでは手に余るのも事実だ」
物陰へと飛び込んだ千聖は、刀刃で飛斬を弾き返している奏へと共闘を持ち掛けていた。その横で斬撃が降り注ぐ中、一人がスティーブ達へと突進する。
「って、お!?啓治突っ込んでったよ!?」
「何をしているんだあの馬鹿は……!?」
千聖と奏が目を見開く先では、啓治が飛斬の乱刃を躱しながら高速移動で蒼へと接近していた。
「威勢いいのがいんじゃねェか……」
「アンタが天堂か……アホ剣士やら春川は随分アンタに執心してるらしいがな……」
愉快そうに笑う蒼の眼前で、地を蹴り上空へと跳躍しながら右腕へと魔力を収束させる。
「2年後
そう言い放つと共に、繰り出される啓治の鉄拳。
無属性魔力×強化術式
『撃拳』
蒼の前に踏み出したスティーブが刀身で拳を受けるが、膂力の全てを威力へと変換した豪快な一撃に大きく後退させられる。しかしその背後では、蒼が抜刀すらせずに反撃の術式を構築し終えていた。
「心意気は結構だが……
無属性魔力×形成術式
『
指先から放たれるのは、魔力を押し固めただけの単純な
「だからこうして……アンタと戦いに来てんだよ!!」
対して啓治は全身へと魔力を展開しながら、真っ向からその刃と激突した。
無属性防御術式
『
体表に纏うだけではなく体内にも魔力を凝縮・集中させる事で、自身の防御能力を大きく引き上げる術式。奏との体術訓練の中で啓治が編み出したその技は、蒼の一撃をも防ぎ止める程の性能を発揮していた。
「お?止めやがった……」
「フフ、奏との訓練の成果ね……!」
軽い驚きを見せる蒼へと、雪華が啓治を援護するように氷属性の魔術を放つ。足元から飛び出した、突き上げる剣山の如き氷撃に、蒼とスティーブは脚力強化による後方への跳躍で距離を取った。
「何だ……結構後輩贔屓じゃねェか、黒乃」
「未来の生徒会メンバーだもの。優しくしておかないと」
蒼と雪華は互いに余裕を崩す事無く、魔力波動の応酬によって空間の制圧権を奪い合っている。
「んじゃ……共同戦線と行こうか。啓治もさぎりんも、遠慮なく突っ込んでいーからね。フォローはしたげるから」
そう告げて来る千聖の隣では、奏が無言で啓治達を一瞥した後地を蹴り駆け出す。そこに言葉は無くとも、『力を示せ』と言う彼女の意思は二人へと伝わっていた。
「……どう動きますか?」
「任せるわ。自分で判断して、好きにやってみろよ。カバーはしてやる」
一方で蒼もまた、ここまで牽制や援護に徹していたスティーブへと自由に戦うよう促す。実力を信頼しているからこその、彼の自主性に任せた言葉。それを受けスティーブは、初めて戦いの最中に小さな笑みを浮かべつつ刀を構え直す。
「分かりました。なら……神宮寺は、俺が相手をします」
「おー、行って来い」
蒼がそう応えると同時に、奏の魔力を纏った掌底が繰り出された。
無属性攻撃術式
『
純然たる破壊力を宿した奏の一撃が、迎撃したスティーブの刀刃と激しく鬩ぎ合う。両者は激突の勢いのまま2号館へ移りつつ、本格的に交戦を開始した。
そして蒼が相手取るのは、雪華・千聖と啓治・沙霧の四人。
水属性魔力攻撃術式
『
繰り出される初撃は、沙霧が放った水属性の高出力砲撃。重く強烈な威力と質量を伴った急流が迫るが、蒼は
「っ……!?」
刀すら用いず流水砲を掻き消したその一撃に、沙霧は声も出せずに瞠目する。しかし彼女を飛び越えるように、全身に強化術式を纏った啓治が再度突撃を仕掛けた。
無属性魔力×強化術式
『撃拳』×『鉄身』
『膂力強化』と、『身体硬化』。二つの術式が持つ性能を一つに重ね、組み合わせる。
無属性攻撃術式
『
膨大な魔力を収束させた、鋼鉄の豪拳が叩き込まれた。啓治の渾身の一撃を掌で受け止める蒼だったが、今度は威力を殺し切れず押し込まれ後退する。
「へェ、
「ムカつく余裕カマしてんじゃねェぞ、クソが……!!」
感心するような声を漏らす蒼へと、啓治の猛ラッシュが炸裂する。絶え間無く繰り出される拳と蹴りの超連撃も、徒手空拳のみで易々と弾き、いなし続ける蒼。
しかしその中で、啓治が放った内の一撃が突如蒼の頬を掠める。
(何だ、急に――――?)
気付いた、違和感。啓治の攻撃速度が、不規則にではあるが上昇し始めている。反応速度を引き上げようとする蒼だったが――――
「――――ちっと遅かったねェ、蒼」
その時既に、千聖は愉しげに嗤っていた。同時に、彼女の術式が発動完了する。
「ゥラァ!!!!」
明らかに威力を強化された、啓治のソバットが鳩尾へと撃ち込まれた。想定以上の速度を叩き出したその一撃は、防御を掻い潜り蒼を壁まで吹き飛ばす。
轟音。
「っとと……やっぱ
痛烈な一撃を喰らいながらも、瓦礫の中から平然と起き上がりつつ千聖へ目を向ける蒼。
白幡 千聖。
彼女が操るのは、魔術によって様々な能力上昇効果を引き起こす『
即ち彼女は連携戦闘の
厄介そうに笑っている蒼へと、更なる追撃が襲い掛かる。上空では既に、強大な魔力を乗せた大鎌を雪華が振り上げていた。
『
そして千聖のサポートによって、雪華の術式に性能上昇効果が加算される。
「さーて、コレは耐え切れるかな?」
悪戯な笑みを浮かべる千聖の視線の先で、雪華が刃を振り下ろした。
氷属性攻撃術式
『
撃ち出される、氷の巨大斬撃群。瞬く間に地表を凍てつかせ、砕く剛撃が衝撃を四方へ暴発させる。冷たい暴風が吹き荒れる中、蒼の姿は白い煙へ呑み込まれ包み隠されていた。
「何だあの威力……!?」
「凄い……!」
雪華と千聖の連携精度が生み出した驚異的な破壊力に、啓治と沙霧が愕然と呟く。しかし白煙が晴れ、二人は更なる驚愕の光景を目の当たりにした。
「いやァ、今のは流石に危なかったわ。やっぱイイ性格してんな白幡お前」
普段と何ら変わらない、飄々とした口調と共に歩み出て来る。そこにはあれだけの猛攻を受けながら、傷一つ負っていない蒼の姿があった。
そしてその手に握られているのは、抜き放たれた一振りの刀。
「やっぱりこの程度じゃ無理ね……」
「安定のバケモンだねアンタ……」
その圧倒的な実力を目にして尚、雪華と千聖は想定内と言った表情で再び術式を構築していく。
動き出す、『最強』。彼を王者たらしめる、刃が緩やかに振り翳された。
◇◇◇
「……全然来ェへんやん」
「知らんがな」
一方その頃7号館では、暇を持て余した如月兄弟が瓦礫でジェンガに興じていた。先程派手な術式で所在を示したものの、一向に誰も戦いに来ない。
「何やねん蒼クンと戦える言うたからオマエと組んだんやぞ。こんなコトなら奏さんか紅と組んだ方がよっぽどマシやったわ」
「ッかましいわボケ。もうちょい待っとけば流石にそろそろ誰か――――」
亜門がそう口を開いた、その時だった。
「どおオオオッせりゃああアアア!!!!」
轟音と共に、壁を突き破った何者かがフロアへ転がり込んで来る。即座に反応し、ジェンガを放り投げ双剣を抜き放つ二人。
「――――ん?何だよ、折角来てみたのにほぼみんなやられてんじゃねーか」
「キミは…………!!」
そこにあったのは、学園を大いに揺るがす"風雲児"春川 日向の姿だった。
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