第8話『百地芸能事務所・3人の社員』

くノ一その一今のうち


8『百地芸能事務所・3人の社員』 





 とっさに思いついてジャージの裾を引っ張ってみる。


 なんと、ジャージの裾が三十センチほども伸びた。


 店のショ-ウィンドウに映して見ると、ミニのワンピースになっている。


 これは、いざという時に、怪しげなジャージ姿から、ワンピース姿に化ける忍者のアイテム?



 胸にプリントされた『百』のロゴが伸びて、縦長の『白』のようになっている。上の横棒は、プリントが劣化して剥げ落ちて……単にぼろぎれ寸前になってただけ? 足元が地下足袋だから、ちょっと不思議なファッション。


 そうだ、ケモ耳とか付けたら、渋谷とかアキバなら通用するかもしれない。


 ウウ、しかし、ここは神田の古書店街だ。さっさと事務所に帰ることにする。





『さすがは風魔の二十一代目! 見事に躱したな!』





 事務所のドアノブに手を掛けるとカギがかかって、インタフォンから社長の声が響いた。


「早く開けてもらえませんか~」


 事務所に近づくにつれ、伸びたジャージが戻り始めている。


 カチャ


 もぉぉぉぉ


 小さくプータレながら社長室に入ると、頭だけ外した着ぐるみの姿の社長が汗を拭いている。


「あ、あれ、社長だったんですか!?」


「ああ、零細企業だからな、足りない分は社長がやる」


「じゃ、残りの着ぐるみと通行人も?」


「うん、狐とアベックはうちの社員だ」


 パサリ


「わっ!」


 目の前が暗くなったと思ったら、ジャージの下が頭に降ってきた。


「油断しちゃいけないなあ」


 振り向くと、もう一人の着ぐるみとアベックが立っている。


「あ、あなたたち!?」


「紹介しよう、狐の着ぐるみが『力持ち』だ」


 たしかに、着ぐるみの上からでも力はありそうだ。首の筋肉とかはプロレスラーみたい。


「あ、いまオレのこと男だと思っただろ」


「え?」


「うちで一番の古参だけど、立派なくノ一だ。化けることに関しては事務所でトップ。衣装・美術・特殊メイクが担当。仕事中は、みんな忍名で呼び合う。みんな『ち』で締める三文字から五文字でつけるのが習いだ。力持ち、なんか言ってやれ」


「四年遅れの覚醒だってな、モノになればいいが……まあ、励め」


「は、はい」


 なんかムカつくけど、取りあえず先輩だし、素直に返事しておく。


「その、男子高校生風の通行人が『嫁もち』」


 え、高校生で嫁もち!?


「あ、忍名。ちゃんと独身だよ。なんでもやるけど、マジックとかが得意かな? スタッフが落ち込んだりしたときには励ますとか、メンタル面でサポートすることもやってるから、困ったことがあったら、相談してね(^▽^)」


 なんだか、感じよさそう。


「ジャージの下を脱がそうって言いだしたのは、こいつだし『感じよさそう』なんて思わない方がいいわよ」


 女子高生が、可愛い唇をゆがめて言った。こいつも、見た目と違う(^_^;)。


「あれは、社長が『手っ取り早く結果を出せ』って言うから」


「嫁もち、今はお金持ちのタームだ」


「はい」


「ヨロ~あたし『お金持ち』。って、あたしが金持ちってわけじゃないからね。いちおう経理も担当。バイトのギャラとか、あたしの胸三寸だから、媚び売っといてね」


「お金持ちも一通りのことはこなすが、専門は情報だ。その、お前の忍名は……」


「『そのいち』でいきます!」


 変な忍名付けられちゃかなわないので宣言しておく。


「……まあいいだろう、風魔のそのいちだしな。まあ、遅咲きなんだ、今のうちに励め。じゃあ、テストの結果をもとにシフトと仕事内容を考えてやってくれ……あ、もうジャージの下履いていいからな」


「え、あ!?」


 気が付くと、上のジャージは、すっかり元の丈に戻っていた(#^△^#)。


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生

風間 その子       風間そのの祖母

百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち


 



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