第3話『風間そのの災難・3』

くノ一その一今のうち


3『風間そのの災難・3』 





 朝、校門で呼び止められて、注意されたこと以外には不幸なことはなかった。


 予習が間に合わなかった英語も、前から順番にあてられて、あたしの前に座ってるAがもたついてるうちにチャイムが鳴って助かった。ほら、ナントカ坂46のAだよ。可愛いし、アイドルのハシクレだからいたぶりたくなる気持ちも分かるけどさ。英訳のBe動詞抜かしたぐらいでカラムことないと思うよ。オーラが通じたのか、チラッと振り向いたAは「テヘペロ」をかましてた。後ろの男子どもが胸キュンしてんのも伝わってきて……ま、いいんだけどさ。


 昼休みの学食、階段の最後の二段ジャンプしたのが功を奏したのか、B定食は、あたしで売り切れ!


 やったね。


 隣のA定食(B定食より50円高い)はとっくに売り切れてた。


 この瞬間に限っては、プロレタリアJK、ブスモブ風間そのの勝利なわけさ。


 くたばれリア充! 


 思わず、トレー持つ手でVサイン。食堂のオバチャンが――よかったね(^_^;)――的に笑みを返してくれる。


 これが、他の生徒だったら、オバチャンは、こんな風には微笑まなかったと思う。


 オバチャンも、若いころからソレナリって感じしたし。通じるんだよねモブキャラ同士。


 万国のモブキャラよ団結せよ!


 モブの単純さ。それだけで、午後の授業は元気に居眠りするだけで乗り越えられた。




 帰りの電車も空いてたわけじゃないんだけど、ちょうど乗ったドアの横の席が空いてて、ラッキー!


 座ろうと思ったら、いっしゅん遅れてご老人が座る気で迫って来て――あ、どうぞ――的に譲ることができた。


 もうワンテンポ遅れたら、人に声かけるのが苦手なあたしは、悶々として駅に着くまで座ってたと思うよ。


 居眠り決め込むか、知らんぷりしてスマホいじってるかしてさ。そいで、隣に座ってる大学生風が「あ、どうぞ」的に席を譲って――おい、モブ子、ほんとはお前が代わるべきだろが――的に、ややあたしの前に寄って立つよ。


 まあ、昨日が昨日だったから、この程度のモブラッキーはあってもいいよね。


 よし、今日はお弁当じゃなくて、なにか作ろうか。


 数少ない料理のレパを頭に巡らせながら改札を出る。



 ピィーーーン



 改札を出て、駅前のロータリーに踏み込んだとたん、耳鳴りのようなものがして、カバン持つ手が総毛だった。


 ロータリーの斜め向こうの歩道を歩いているオネエサンが際立って見える。


 このオネエサンに危機が迫ってる!


 感じたとたんに体が動いた。


 ガードレールをジャンプして、斜め向こうの歩道に着地すると同時にオネエサンを書店の壁に押し付け、そのまま三回ジャンプした!


 ショーウィンドウの屋根、テナントの看板、電柱のてっぺん、そしてビルの屋上にトドメのジャンプを決め、手すりの外に身を乗り出していた学生風の上半身を両足で挟み込んで屋上に倒れ込んだ。


 ズサ


「このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!」


「……………だ、だれ?」


 パッシーーン!


「死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!」


 我ながら、見事に平手と啖呵を決めてアホ男の自殺を食い止めた。


「ご、ごめんなさい……」


 一言詫びると、アホ男はひっくり返ったカエルのようになって、涙と鼻水でグチャグチャになった。


 ガチャ


 屋上階段室のドアが開いて、警備員さんが二人やってくる。


 もう大丈夫。ちょ、ヤバイ!


 相反する二つの気持ちが湧いて、三分たったウルトラマンみたいに、あたしはトンズラを決めた。


 

 え……いまの何? あたし、なにやったの!?



 ふと我に返って、ビルを振り返る。


―― パンツ、青の縞々だった ――


 な、なにを見てんのよおおおお(#°д°#)!


 アホ男の想念が降ってきて、晩ご飯の買い物もすっとんで、まっしぐら家に帰るあたしだった。




☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生

風間 その子       風間そのの祖母


 

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