第2話『風間そのの災難・2』

くノ一その一今のうち


2『風間そのの災難・2』 





 凹んでばかりいられないので、ちゃんとスーパーで買い物をする。



 買い物は晩ご飯のあれこれ。


 ここんとこ、お祖母ちゃん不調だから、あたしがやってる。


 お祖母ちゃん、今年に入って晩御飯失敗してばかり。


 お味噌汁にお味噌入れ忘れたり、砂糖と小麦粉の区別つかなくなったり、金魚を三枚におろしたり。


 あと、炊飯器のスイッチ入れ忘れぐらいならいいんだけど、揚げ物、炒め物に失敗して、二回火事出しかけたし。


 危なくって任せられないから、夏の終り頃からは、あたしがやってる。


 たぶん認知症なんだろうけど、要介護認定……してもらわなきゃいけないんだろうけど、あたしも、お祖母ちゃんも、怖くって踏み切れない。


 要介護3とか出てさ、「一人にしてちゃいけませんね」とかケアマネさんに言われたら、介護付き老人ホーム入れてあげられるだけの余裕なんて無いしさ。


 まだ、まだらにまともな時もあるから、ショックだけはイッチョマエに受けて、いっそうダメになるような気がする。


 下手したら、三年のこの時期に学校辞めて、在宅介護とかしなくちゃならないかも。


 口下手だから、役所に行って相談したり……ちょっち無理。


 ああ……落ち込む。


 お料理する元気も気力も無くなって、けっきょく、五時を過ぎて半額シール貼ってもらうの待って、お弁当買って帰る……もう三日も続いてるんだけどね。お祖母ちゃん、食い意地だけはボケてないから「また、弁当買かい……」って、暗い顔して言うんだ。


 まあ、他に、糖尿とか心疾患とか、肝臓とかも悪いから、あたしが二十五になるくらいまでには死ぬだろ。


 あと、七八年といったとこかなあ。



「死ねばいいと思ってる目だ……」



 ぐっ……見抜かれてる。


「思ってないよ、んなこと……」


 ドア開けて、目が合ったのがマズかった。なんか見抜かれて、でも「そうだよ、さっさとくたばっちまえよ、クソババア!」なんて言えるはずも無く、制服のまま夕飯の用意……って、弁当並べて、インスタントの味噌汁こさえるだけ。


「制服ぐらい着替えたら……」


「食べてからでいいんだよ、お祖母ちゃんも、晩御飯、早く食べたいでしょ」


「あんまり早く食べたら、食べたこと忘れそうになる……」


 ゲ、それやめて。「その、晩御飯まだかい?」なんて、洗い物してる最中に言われるのカンベンして。


 なんか会話しなくちゃと思うんだけど、なにか言ったら、どんな変な方向に話しいっちゃうか分かんないし……駅の階段踏み外して、知らないオッサンとほとんどファーストキスしてしまうところだったあ(^_^;)!……なんて自虐ネタ……みじめになるだけ、ありえねえ。


「……猫触ったね?」


「え?」


 そうだ、猫の話……だめ、オッサンも猫も、もう黒歴史の最新ページになってしまってるし。凹んだ顔で話したら、お祖母ちゃんのまだらボケが、どんな災厄をもたらすか知れない。


「ちょっと、抱っこして……でもハンカチではたいたし、手も洗ったし」


「責めてるんじゃないよ……」


 ニャンパラリンの話……発作的なことだったし、お巡りさんには叱られたし、凹んだ話したら、お祖母ちゃん変になるかもだし……けっきょく、黙々とお弁当食べて、さっさとお風呂に入る。


 ちゃちゃっと着替えて、頭乾かして、やっと一日でいちばん自由になる。


 進路のことも、お祖母ちゃんの事もいっぱい心配だけど、とりあえずは、頭切り替えてネットサーフィンやって寝落ちする。


 風間そのの冴えない一日……アニメだったら、ここでエンドロール出て、また来週なんだろうけど。


 リアルの人生は一週間の余裕なんて与えてくれなくて、容赦なく朝がやって来る。


 

 そして、お祖母ちゃんとの朝の格闘……は省略して学校に行く。



「風間、ちょっと……」


 校門潜ろうとしたら、生活指導の先生に呼び止められる。


 脳みそをグルンと巡らせる。服装も頭髪も問題なし、遅刻って時間帯でもないし、なに? なんかしたあたし?


 生活指導室までは呼ばれなくて、掲示板の横。


 ま、大したことじゃなさそう。とりあえず恐れ入っておく、目線だけ落として真っ直ぐ立って恭順の姿勢。


「おまえ、猫助けようとして、ちょっと事故になりかけたんだってな」


 え、もう警察から連絡してきた?


「まあ、動機は責めるようなことじゃないけど、ひとつ間違えたら大事故になってるとこだ。気を付けるんだぞ」


「警察から電話あったんですか?」


「ああ、いちおう正式に電話してきたから、釘刺しとくぞ」


「は、はい」


 アリバイ指導……まあいい。


 今度、猫が轢かれそうになって、それで、駅前で大事故起こっても、あたしのせいじゃないからね。


「もういい、いけ」


「…………」


 アリバイ指導でもいいからさ、もうちょっと優しく言えないもんかなあ。


 ナントカ坂46のA子とかだったら、先生の対応、ぜったい違うよ。


 ブスモブって損だ。


 ダメだ、不足を言ったら、落ち込み急降下。


 ピシャピシャ


 頬っぺたを叩いて昇降口に向かう。また、さい先の悪い一日が始まってしまった。




 ☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生

風間 その子       風間そのの祖母

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