第9話 逃亡の旅に出ました

「先代は……から来て、それから……して……となりました」


「そっかー、俺の先祖は苦労したんだな。そして……楽園を手にした」


「はい。AIの私が言うのもなんですが、先代マスターは満足して旅立たれました。大変苦労されましたが最後は笑顔でしたよ。良い人生だった思います」


「それは良かった」


 俺は日記には書かれていない、先代の逸話を少し聞いていた。これぞ大冒険物語である。

 いずれまとめて本にしたいとこだ。それだけ面白い。

 俺は朝食を食い終えて、お湯を飲んでるとふと思う。


「……アーモンドと村の奴ら、ちゃんと飯を食ってるかなー。アイツら戦闘スキルはあるけど、生活・・スキルはからっきしだからなー」


「失礼ですがマロン様、罪を着せられたのに恨んでないのですか? 復讐したいと思わないのですか? そんなゲスの心配をされる気持ちが、私には理解できません」


「そりゃー、鉱山にぶち込まれた時は頭にきてたさ。だけどお前に会えて自由になれたし、仲間との楽しい思い出もあるんだよ……アーモンドも昔は悪い奴じゃなかった。だが、三代目ギルマスだけは許せん! あのクソ野郎は敵だ!」


「……そうですか。それでは今後どうしますか?」


「うーん……そうだな、確か他の場所にも先代の遺産が眠ってるんだったよな? それを探してみようと思う。もうすぐ王国は負けるから、戦に巻き込まれる前におさらばしよう。俺に身よりはいないし、先代のように冒険の旅をしてみようぜ、クレイ」


「はい、分かりました。マロン様の思うがままに」


 逃亡者の俺がこのまま王国内にいれば、いずれ追っ手がくるだろう。

 魔国に行くのは論外で人間は殺される。

 帝国に行ったとしても、王国出身とバレたら奴隷だ。身の置き場はない。


 ならば、風来坊のように生きてみよう。


「あとは南の辺境にいくか、このバルバラ大陸を出るしかないな。ただ海に出るなど自殺行為だ。海の向こうに興味はあるが」

「私と先代の遺産があれば航海は可能です。それでも準備に時間がかかりますし、何より……」

「そうだな、行き着く先が楽園とは限らん。さらなる地獄が待ってるかもな。おお恐い」

「はい。マロン様、お一人ではきついかと」

「信用できる仲間でもいればな。まあいなくてもいいや。さて行くとするか、クレイ」

「はい」


 俺は焚き火を消して立ち上がった。


 道案内はクレイがやってくれる。しかも、

「前方500ペデス(㍍)に大型獣、他に生物反応なし。半径三パッス(㎞)以内に魔物はおりません」


 前もって危険な生き物の位置を教えてくれるので、安心して旅ができる。

 敵の不意打ちを警戒しながら旅をするのは精神的にきついが、これなら楽ちん。

 いきなり殺される心配はない。いざとなればモンスターエッグを使うだけだ。


 俺は街道には出ず山道を歩いていた。なるべく人に会うのは避け、フードで顔をかくしておく。

 いずれくる追っ手に、足取りをつかませないためだ。

 俺の手配書が出回れば、街には近づけなくなるだろう。お尋ね者は行方をくらまして、逃げ回るしかない。


「しっかし、すげー探知魔法だなクレイ。探知スキルでも50ペデスがいいとこ。それも正確な敵の位置がわかるわけじゃない」

「いえ魔法ではなく、熱源探知機と収音探知器です。ひっくるめてレーダーとも言います、マロン様」


 どうもクレイは魔法を毛嫌いしてるようで、科学と言わないと不機嫌になる。

 先代から続く遺恨のようで、魔力持ちとは何度も戦ったらしい。


 科学と魔法は相反する力と聞いている。


 様々なスキルに苦戦したらしく、先代はモンスターエッグを使わざるを得なかった。

 俺もそうなるだろう。

 まあ感情のある相棒のおかけで、退屈しなくてすむ。


 クレイとの会話は楽しい。この先一人でもやっていけそうだった。



 日が落ちるのは早い。


 夕方になって寝る場所を探すことにする。岩山の近くにある平らな場所にした。

 水や食い物はバックにあるので、寝床を用意するだけでいい。


 バックに手を突っ込んで、アイテムを出す。


「それっ!」


 奇妙な音楽とともにテントが現れた。色は黄と緑のまだら模様。迷彩色?


 正確には防護シェルターだそうで、魔物の鬼熊の攻撃にも耐えるそうだ。


 ちなみに体長三ペデスもある鬼熊の爪は、人の体を軽く引き裂き、体当たりをくらえばひとたまりもない。

 Aクラスの魔物で、手練れの冒険者パーティでも手こずるほどだ。


 それに対抗できるのだから、やはり先代の遺産は凄い。ただ……


「……この変な音楽いるのか? クレイ」


「効果音は気分です。マロン様」


「…………」


 どうもクレイは音楽を鳴らしたがる。完全に趣味だな。

 もっとも近くに敵がいたら物音は立てないと言った。

 位置がバれるのはやばいからな、その辺はわきまえてるようだ。


「あとは獣達が嫌がる音を一晩中流します。これでテントに近寄ってくることはないでしょう。人には聞こえませんので、マロン様はグッスリとお休みください。もし危険が迫れば起こします」


「そうか、任せたクレイ」


 夕飯を食ったあとで、俺はテントに入る。下に敷かれたシートは柔らかく、中の温度も快適だ。

 寝袋がなくても問題なし。いたれりつくせりだ。さあ寝るとしよう。


「子守唄はどうしますか?」


「いらんわい!」

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