第8話 モンスターエッグを使ってみました

「頃合いだな、お前らには実験台になってもらうぞ。殺人鬼だから良心も痛まなくてすむしな。さあモンスターエッグよ、その恐るべき力を見せるがいい!」


「なにっ!?」

「怪物の卵だと!?」

 二人の目の前に卵が突然現れる。姿を消したまま俺が置いたのだ。

 あとは高みの見物――なぜか不気味な音楽が鳴り出す。クレイの仕業だった。


「……この音は必要なのか?」

「はい、儀式ですので。あと相手をビビらすのに音楽は効果的です」

「…………」


 クレイが理由を言っても、俺はいまいち納得できなかった。

 まあ、敵を混乱させるのにはいいのかもしれない。

 バラモンとカブトは一瞬だけ途惑ったが、卵に攻撃をしてくる。


「なめるなー! ファイヤーボール!」

 まだ魔力はあるようだ。

 火の球は卵に命中するも、壊れることはなかった。

 ただ色が白から青色に変わる。


「こんな物、たたき割ってやる!」

 今度はカブトが剣を思い切り振り下ろす。

「ぐわっ!」

 剣が当たったとたん、体ごと跳ね返されてしまう。

 卵には傷一つついてない。卵の色が黄色に変わる。


「あと少しか……」

「はいマロン様。いよいよ……が出てきますよ」


 カブトとバラモンは驚いていた。


「くそっ! これは一体なんなんだ!?」


 二人はあきらめずに何度も攻撃を加えるも、卵が壊れる様子がまったくない。

 どうみてももろそうな殻なのに、まるでミスリル鎧のように頑丈である。

 スキルを使い続けた二人は、しゃがみ込んでしまう。


「あれ……なんだか力が入らねー。もう魔力切れか……」

「俺も……」


 卵は赤色に変わりピキピキと音を立てて、殻にヒビが入って割れた。


 ついにモンスターが生まれた。


 ただそれは小さな生き物。体長はおよそ10ピッス(㌢)。


 モンスターと言う割にはちっとも恐ろしくもなく、むしろ可愛いと言えるだろう……見た目だけならな。


 奴らはなめてかかる。


「……はあー!? 笑わせるな! これがモンスターだと?」

「脅かしやがって、踏み潰してやる――――ぎゃあああああああ!」

「ぐわああああああああ!」


 カブトとバラモンの絶叫が鉱山に木霊する。

 奴らはもがき苦しみ、のたうち回っていた。小さなモンスターは何もしてないように見える。

 二人の近くにいるだけだ。


 実は目には見えない攻撃をしていて、俺は恐くて冷や汗を流していた。


「これがモンスターエッグの力か……なんて恐ろしい」


 日記を読んだので何が起きたかは分かっていた。自分がくらったらと思うとゾッとする。

 これはモンスターによる特殊攻撃で、奴らは地獄の苦しみを味わっただろう。

 俺には影響がない。


 二人が動かなくなったところで、ゆっくりと近づいていく。一応警戒してたがピクリともせず倒れたままだ。

 顔は苦痛にゆがんでいて見られたものではない。俺は目をそらす。


 いつまにか小さなモンスターは消えており、元の卵に戻っていた。


「クレイ……二人はまだ生きてるんだよな?」

「はいマロン様。ですが、もはや二度と魔法とスキルは使えません。再起不能です」

「そうか、人として終わったんだな……」


 殺人鬼とはいえ、俺は哀れに思ってしまいトドメは刺さなかった。

 どうしても憎みきれない。自分でも甘いとは思ってる。それが俺の性分なのだ。

 それよりも鉱山から逃げるのが先、囚人達の抵抗もそろそろ限界である。

 強い帝国兵相手に善戦したといえる。


「鉱山よさらば。二度とココに来ることはないだろう」


 俺は卵を回収し、姿を消したまま出口へと向かう。気づいた者は誰もいない。



 こうして俺は逃亡者となった――。


 ……………………


 帝国軍の鉱山襲撃から一日が経つ。


「よーし、できたぞ。では頂きます」

「はい」


 俺は手を合わせて、作った料理を食べていた。

 メニューは野菜と肉を入れたスープと、黒パンとチーズ。

 飲み物は革袋に入った葡萄酒。


「うん、美味い。帝国の食料はかなりいい。補給がしっかりしてる。こりゃー王国はいずれ負けるな」

 食っているのは、帝国軍からかっぱらった物である。


 俺は鉱山から出たあと、帝国軍の真ん中を通り荷馬車の中に入った。

 補給物資を守る兵はいたものの、あくびをするだけで、姿を消した俺に気づくことはなかった。

 旅に必要な飲み水と食い物を樽ごとバッグに入れる。ついでに金もいただく。

 かなり大きい物でも、バックにすんなりと入った。不思議なものだ。

 また、かなりの量が入り食料の長期保存もできるらしい。これは便利。


 こんな魔道具は見たことも聞いたこともない。透明になれるマントも凄い。


 先代の遺産には驚くばかりだ。クレイに言わせると、

「バックは次元収納庫です。マロン様」

「……ふーん、やっぱり科学とやらはよくわからんな。ところでクレイは何も食わなくていいのか?」


「はい、私は太陽の光を当てていただければ十分です。なくても数十年は稼働可能です」


 俺は朝食をとりながら、クレイと話し込んでいた。


――――――――――――――――――――

 マロンの装備 帝国兵の服 マント 怪しいバック モンスターエッグ

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