第7話 怪しいバックを手に入れました

 俺はテーブルにあった椅子に座る。立ったままでは落ち着いて読めない。

 殺人鬼どもが気になったが、クレイの話ではココには入れないらしく、集中して日記を読むことができた。


 ページをめくるたびに、俺は興奮して驚いてしまう。



 ……………………



「……そういうことか」


 一通り日記を読んで俺はつぶやく。しばらくぼう然となる。

 日記に書かれてあったのは先代の秘密と、子孫へのメッセージ。

 これで俺が何者で、なぜ魔力0なのかを知ることができた。

 俺は肩かけ鞄を手に取って日記を中にしまう。だいたいの事は分かったので、後でまた読むだけだ。


 俺は卵にも手を伸ばすが、直前で取るのをためらう。


 日記の中に卵の取り扱い説明書があり、かなりヤバイ代物であるのを知ったからだ。


 一言で言えば『両刃の剣』。


「うー、怪物の卵モンスターエッグは持っていくしかないんだよな……」

「はい、魔力のないマロン様には絶対必要です。敵がスキル持ちなら切り札になります。鉱山から脱出するのにも使うしかありません。敵はまだまだいます」

「……分かったクレイ」


 そろそろと俺は右手をのばす。

 指が触れたがなんともない。卵を手に取ったとたん、色が黒くなって光った。


「うおっ!」


 一瞬だけ人の目のような物が見えたが、白い卵に戻っていた。


「……との契約は完了しました」

「そうか、もう覚悟を決めるしかないな……」

「はい」


 俺は卵をバックに入れて立ち上がる。


「さあ、行くか! クレイ」

「はい、どこまでもお供いたします。マロン様!」


 床に丸い円が現れた。中に入れば地上に出られるらしい。

 転移魔法か? とクレイに聞くと「違います」と否定された。


 まあいいや、入ってみよう――。



「ワアアアアアアアアー!」

「死ね、死ね、死ねー!」

「やられてたまるかー!」


 怒号が飛び交い、剣戟と魔法の音がやかましかった。どうやら無事に地上に出られたようだ。

 鉱山の中で帝国軍と囚人達が戦っていた。看守達が倒れたから攻めてきたのだろう。

 囚人達はなんとか持ちこたえている。自分の命がかかってるから必死なのだろう。連戦で疲れただの言ってられない。


 いかんせん、数では負けている。ジリジリと帝国兵に押されていた。

 俺が双方の戦いを見ていると、運悪くカブトとバラモンに見つかってしまう。

 奴らは地上に戻っていた。俺が死んだものと思ったらしい。


「穴に落ちて死ななかったのか? 悪運の強い野郎だ」

「……ウズは死んだ。お前は殺す!」


 聞いた俺は、ざまーみろと思った。殺しにきた奴を返り討ちにして何が悪い!

 まあ、こいつらと話をしても無駄だろう。殺人鬼は人じゃない。

 今から倒してケリをつけてやる。さっきまでの弱い俺ではない。魔力はなくとも、偉大な先祖の遺産を手にしたからには、負ける気はしなかった。


 俺は胸を張って言い返す。


「いーや、もう無理だな。お前らは俺には勝てない」

「強がりを言うなマロン! まずは切り刻んでやる。武技、花吹雪!」


 いきなりカブトが襲ってくる。

 剣を持ったまま一気に俺に詰め寄って、目にも留まらぬ連撃を繰り出す。

 まともに食らえば、花びらのように肉片が飛んだだろう……その場にいればの話。


「なにっ!?」

「どこへ消えた!?」


 スキルをくらう前に、俺は姿を消していた。二人からは見えないが俺からは見える。

 あらかじめバッグの中から、透明になる道具を取り出して使ったのである。


 先代の遺産の一つ。


「くそっ! ファイヤーボール連射!」


 バラモンがやけくそ気味に魔法を連発するも、あさっての方向に撃っているので俺に当たることはない。

 俺が見えないので恐ろしいのだろう。体当たりでウズが倒されてるから、やられる前に仕留めたいのだ。


(くっくくくくく! 焦ってるな? そーれ!)


「うっ!?」

「そこか!?」


 拾った石を投げると、音がした方向に二人は反応して攻撃をする。面白いくらいに引っかかってくれた。

 魔法と武技を無駄撃ちさせるのが狙いだ。


「ふー……ふー……」 


「ぜー……ぜー……」


 バテた所を見計らい、俺はバックからモンスターエッグを取り出す……。

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