第6話 名前をつけました


 ……………………


「……うっ、まだ生きてるようだな。やれやれ運がいいのか悪いのか……」


 俺は気がついた。どうやら穴に落ちて気絶してたらしい。

 目を開けて周りを見れば、俺一人だけ。他には誰もいない。


「いちちちち!」


 体を動かしてみると、アチコチぶつけたようで少し痛む。それでも受け身・・・をとったので大怪我はしていない……ウケミってなんだ?

 これもアイツが教えてくれたのだろう。知らないはずの知識が、俺の頭に入っている。

 絶対に幽霊ではない。口と体がなければ、言葉を話せるはずがないのだ。

 俺を助けてくれるのはありがたいが、理由を知りたかった。なぜに?

 呼んでも応えてはくれず、アイツの声は聞こえてこなかった。


 体をさすりながら俺は立ち上がる。

 三人組の一人は倒したが、残った二人がここまでくるかもしれない。しつこい奴らだからな。

 逃げるとしよう。



「……しかしココは明るいな。まるで昼間のようだ」


 俺は地下空洞に落ちたようで、見渡すと一本だけの通路がある。

 白い床も白い壁も見たことがない素材でできていて、レンガではないのは確か。

 それ自体が光っている。眩しくもなくちょうど良い明るさだ。


「古代遺跡か? 鉱山の地下にこんなものがあったとは」

 昔は今よりも進んだ古代文明があった、と聞いたことはある。

 本当かどうかは知らん。闇市場で売られてる怪しい遺物ならいくらでもある。


 どうせ古い物は朽ちて壊れて残ってないだろう。何百年たっても変わらないのは金だけだ。

 

 どうでもいいことを思いながら俺は歩いていた。しかし……前に進んでも進んでも、道の終わりが見えてこない。


「一体、どこまで続くんじゃー! いいかげん疲れたわ!」


 いらついた俺は怒鳴り声を上げた。さっきまで走っていたのでもう歩けない。

 かれこれ1ウンマ(時間)は過ぎただろう。もうやってらんねー!

 俺はしゃがみ込んで壁に寄りかかる。休んでいるうちにふと気づく。


「……まてよ。さっきから同じ所を歩いてたんじゃないか?」


「イエス・オフコース! その通りです!」

「うわっ!」


 突然かけられた声にも驚いたが、寄りかかっていた壁がなくなり、俺は後ろに倒れこんでしまう。


「いちちち――――うん?」

 そこは広い部屋だった。真ん中には大きな水晶の塊があり、赤く光る石塔がその周りを囲んでいる。


 よく見ると水晶の中に何かがある。俺が近寄ろうとすると、

「危険です、お下がりください! しばしお待ちを。今障壁バリアを解除します」

 なんのことだか分からんかったが、俺は言うとおりにした。

 喋ってるのはアイツだ。しかし、姿は見えず声だけが聞こえてくる。とても不思議だ。


 そして赤い石塔の光が消える。たぶん侵入者用のトラップなのだろう。

 罠は地下迷宮ダンジョンによくあるもので、引っかかったらパーティーが全滅しかねない。とても危険なものだった。

 忠告を聞かねば、俺も危なかった。


「それでは前にお進みください。最終検査をいたしますので、手前にある小皿に、アナタの血を一滴入れてください」

「なんだそりゃ?」

「もし違っていても、アナタに危害を加えたりはしません。地上までご案内します」

「……分かった」

 俺は素直にしたがう。

 これが古代文明だとすれば、とんでもない力を持ってるかもしれないので、下手に逆らうべきではなかった。

 魔法の一発でもくらえば、俺は助かるまい。


 小皿にあった針を指に刺して、血をたらす。いてっ!


「ご協力ありがとうございます。これよりDNA鑑定に入りますので、少しお待ちください。検査装置起動、AGCT…………ゲノム解析終了。一致率90.8765パーセント。あなたを先代の後継者と認めます」


「はあー!?」


「私は管理AI。ようこそ新たなるマイ・マスター!」

「うおっ!」


 水晶の塊が音を立てて崩れ落ち、俺は驚いた。

 細かい砂になって部屋一面に広がる。キラキラと光る砂漠のようだ。

 現れたのは中に隠されていた物。


 大理石の長テーブルがあり、三つの物が並んで置かれていた。


 右には一冊の本、真ん中には肩かけ鞄ショルダーバッグ……そして左には、白い卵があった。


 見るからに奇妙な卵は鶏卵より大きく、何より不思議なのは卵が立っていたことである。


 横に倒れる様子はなく、少しも動くことはなかった。アイツは言った。


「まずは先代の日記をお読みください」


「……お前もしかして、そのバックの中にいるのか? あと何て呼べばいい? 人じゃないのは分かるが、名前がないとスッキリしない」


 喋る剣や鎧の話は本で読んだことはあるが、インテリジェンス・アイテムはおとぎ話に出てくるもので、実物が発見されたことはなかった。


 これが本物なら世紀の発見となる。


「はい、私の本体はバックの中の別空間領域にあります。AIの私に名前はありませんので、好きにお呼びください」


「なら……お前の名はクレイだ。俺はマロン」


「了解しました。マロン様」


 俺はさっそく、日記を手に取って読んでみることにする。


 何が書かれているのやら……。


――――――――――――――――――――

 マロンの装備 囚人の服

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