第5話 穴に落ちました

「今までの恨み思い知れー!」

「ぶっ殺せー! 仕返しだー!」

「くそ! お前ら逆らうんじゃねー! 帝国軍が来てるんだぞ!?」

「そんなの知ったことか!」

 囚人達にとっては帝国より看守達が敵だ。俺達をイビっていたので、それだけ恨まれている。

 いい気味だ。三人組にダマされたのが悪い。

 俺は暴動には参戦せず、どうするかを考えていた。


(うーん、あそこに隠れようかなー、いやその前に食い物をとってこよう)



 看守達は押しまくられていた。不意を突かれた上に人数は少ない。

 囚人達は気持ちも勝っていて、ウズ・カブト・バラモンの三人組はやはり強かった。

 他を圧倒している。腐っても元王国騎士とA級冒険者なだけはある。


武技スキル、一刀両断!」

「ギャア――――!」

「た、助けてくれー」

「うるせー! 死にやがれー!」

 命乞いをしても看守が許されるわけもなく、囚人達に袋だたきにされてしまう……むごい。

 俺は見ていられず目をそらす。あまり気分のいいものではなかった。


「けっけけけけけ! ざまあ見やがれ!」

 決着はついた。立っている看守は一人もいない。ただ囚人達もかなりやられていた。

 俺も看守は大嫌いだったが、こうなると哀れに思えてくる。ここでふと疑問がわく。 

(あれ? おかしいぞ、帝国軍が攻めてこない……そうか! 看守と囚人の共倒れを待っていたんだ!)


 帝国の将軍はかなり頭がいいようだ。これなら味方の兵士は死なずに済む。

 守備隊をおびき出したことといい、鉱山にはスパイがいて連絡してるのだろう。

 俺達は何も出来ず、手のひらで踊らされていたのだ。

 暴れて疲れた囚人では帝国兵には勝てない。皆殺しにされる――!



「あっ! マロンがいたぞー!」

「あいつは気に入らねーから、ブチ殺す!」

「しまった!」

 気が緩んでいた俺は三人組に見つかってしまう。やばい!

 俺は坑道の穴へ向かって走り出す。


「待ちやがれー!」

 殺人鬼達が追ってくる。狂った奴らは止まらない、止められない。

 俺を目の敵にしてたから、意地でも殺したいのだろう。

 魔力0が勝てるわけもなく必死に逃げるしかなかった。捕まったら最後。

 暗い坑道の奥へ下へと進んでいく。

 通路に松明たいまつはあるが小さい明かりでしかなく、転ばないよう足下に気をつけるしかなかった。

 しかし、だんだんと息が上がってくる……こりゃーまずいな。


「はあ! はあ! はあ! ――うっ!」

 坑道内を本気で走ってるうちに、行き止まりに来てしまった。

 慌てて引き返すも、とうとう奴らに追いつかれてしまう。


「けっけけけけ、とうとう追い詰めたぞマロン!」

「手間をかけさせやがって! たっぷりと痛めつけて殺してやる!」

「まずは、足からもいでやるか!」


 ふざけんなー!

 俺は頭にきた。裏切られて無実の罪を着せられた上に、なんでテメーらに殺されなくちゃいけないんだ!

 このままやられてたまるか! せめて一発ぶん殴ってやる! 

 あ……ここにきて幻聴が聞こえてきた。


『……をしてください』


 その声に従って俺はその場にしゃがんだ。

 

「ん? なんだ命乞いか?」

「ぎゃははははははは! 無様だなーマロン」


 笑っている今がチャンスだ。


 俺はOTL状態から、腕を開いて片足をのばし尻を上にあげる。これは土下座ではない。

 前方に素早く進む方法で、くらうちんぐすたーと……なんだそりゃ?

 俺の知らないことだ。たぶんアイツ・・・が教えてくれたのかもしれない。

 この際それはどうでもいい、やることは決まっている。俺は声を出す。


「よ~い、ドン!」

「なにっ!? ファイヤ――――ぐはっ!」


 真ん中にいたウズが魔法を使う前に、俺は体当たりを喰らわせてやった。大成功!

 バキッ、という骨が折れる音がして、ウズは吹っ飛んで壁にぶち当たる。

 一瞬で体が加速し、俺の巨体は恐ろしい凶器になった。もう立てまい。

 俺はそのまま二人の間をすり抜けていく。


「しっかりしろ、ウズ!」

「マロン、待ちやがれ!」

 待てと言われて待つ気はない。殺されてたまるか!


 ……えっ!?


 数歩進んだら、いきなり足下が崩れる。これは陥没だ!

「うわあああああ!」


 地面にポッカリと開いた穴に、俺は滑り落ちていく……。


 なんてついてない!

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