第3話 囚人になりました

「オラッ! きりきり働け!」

「サボったら飯抜きだ!」


 看守達の怒鳴り声と、ビシビシと鞭の音が聞こえてくる。

 ここは鉱山刑務所、魔石を採掘する場所だ。

 罪人として送られてきた者らは囚人となり、採掘作業をやらされる……死ぬまで。

 鉱山では大勢の囚人達が働かされていて一般人はくることはない。


「そーれ!」

 無実の俺もツルハシを振るうしかなかった。

 ここで掘り出された魔石は王都へと送られる。重要な資源であり戦局を左右するほどだ。


 魔石には魔力を増幅する力があるので、研磨加工されて武器に取りつけられ、剣・弓・槍・杖の威力を上げるのだ。

 戦う冒険者や騎士には必需品。ランクの高い魔石は目玉が飛び出るような値段がつく。

 まあ、魔法が使えない俺には関係のないことだった……。



 数日前。

 捕まった俺は檻車かんしゃに入れられて、見せしめに王都の大通りを通ってから鉱山に送られた。

 行く途中で石をぶつけてくる者もいたが、近寄って声をかけてくれた優しい人達もいた。

 俺の前でさえぎる衛兵ともみ合いになる。


「マロン! お前は何もやってないんだろ!?」

「あんたがどうしてこんな目に!?」

「今までありがとう。市場のおばさん、鍛冶屋のおじさん」


 俺は嬉しかった。無実と信じてくれる人がいるだけで幸せだ。

 いつも世話になったので、せめて御礼だけは言いたい。本当に感謝だ。

 やがて檻車は離れていき二人の姿が見えなくなる。これが今生の別れになるだろう。

 ギルマスのクソ野郎とアーモンドは許せないが、復讐のしようもない。


 なにせ、生きて鉱山から出た者は一人もいないのだ……。



 こうして俺は囚人となる。鉱山にきてからはツルハシを振るう毎日。

 体力だけはあるので、まだへばったりはしない。ただし仕事場の環境は劣悪。

 看守達はいばりちらし無用な暴力を振るう。囚人達をいじめて遊んでいるのだ。


 むかつく!


 俺達が死んだところで責任を問われることはなく、囚人は人間あつかいはしてもらえず、使い捨ての道具である。

 坑道がいい加減に掘られてるせいで、落盤と崩落はしょっちゅう起こり、事故に巻き込まれる者が後を絶たなかった。


「くそっ! みんな手伝ってくれー!」

「おうっ!」

 俺は事故現場にかけつけては、スコップで土をかきだし何人か救っている。

 ただ、助けても治療してもらえないので、亡くなる者は多かった。


 囚人達の不満は高まる一方だが、反乱や暴動が起きることは絶対にない。

 人数はかなり多い。それでも看守達には刃向かえなかった。

 なぜなら囚人には、「魔封じの首かせ」がつけられ、これで魔法や武技スキルが使えなくなってしまうのだ。牙を抜かれた獣と同じ。

 首かせは魔法具で詳しい仕組みは知らん。聞いた話だと体内にある魔経絡まけいらくに影響を与え魔力を流せなくするらしい。


 練った魔力を放出できなければ、魔法が発動しないので戦うのは無理。

 無力にされた囚人が魔法の使える看守に勝てるわけもなく、百人がかりでもたった一人に倒されるだろう。それだけ力の差がでるのだ。

 もっとも魔力0の俺には関係ないが、囚人の証しとして首かせはつけられる。一応管理番号が彫られていた。


 ……首かせが外されるのは死んだ時だけ。


 人助けをしてるうちに、俺は囚人達から信頼されるようになってしまう。

 声をかけてくる者は日に日に増えて、もはや仲間と言っていい。

 食事当番のときに腕を振るってみせると、


「うめえー! 粗末な食材で、どうしてこんな料理ができるんだー!?」

「ずっと食事当番をやってくれよ、マロン!」

「はっははははははは!」


 褒められると気分は良かった。これもギルドで料理の腕を磨いていたからである。

 俺は思い出してしまう。村の奴らも昔は感謝してくれたんだがなー……せんないことだ。


 今は囚人達と仲良く過ごしたい……明日死ぬこともあるのだから。



「ちっ! 調子にのりやがって」

「いい気になるなよ!」

 やや遠くから陰口が聞こえてきた。その声は大きい。

 わざと聞こえるように言ってるのだろう。俺は特に気にしない。

 世の中には味方もいれば敵もいるし、そして裏切る者もいる……。


 囚人の中には元騎士や冒険者がいて、落ちぶれてもプライドだけは異常に高かった。

 みんなからチヤホヤされてる俺が気に食わないのだろう。

 問題児の三人組が俺をにらんでいた。かと言って絡んではこないのでスルーする。

 まず殴りかかってくることはないだろう。


 何せ俺の図体ガタイはデカく筋骨隆々である。毎日の物運びで鍛えられていた。

 自分で言うのもなんだが肉弾戦なら負ける気はしない。

 それに喧嘩を看守に気づかれたら、両方に罰が与えられるので、そんな損なことはしない。

 こんな底辺で争っても意味はなかった。


 いずれはみんなココで死んでしまうが、希望はなくとも長く生きたい……。

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