第2話 はめられました


「おい聞いているのか!? マロン!」


「……ああ」


 ボーッとしていた俺を怒鳴りつけてきたのは、兄と慕っていたアーモンド。

 二十歳になると態度は一変し、他人を見下して威張るようになってしまった。

 冒険者として修羅場をくぐり、剣士として才能を開花させて必殺技を身につけ、王国で五本指に入る実力者になった。おごりたかぶるのも仕方ない。

 顔も稼ぎも良いので、寄ってくる女をとっかえひっかえしては遊んでいる。

 ごつい顔で女性に縁のない俺とは違う。


 他の仲間達も同じで今はかなり強い。ビック・サンは大手ギルドになっていた。

 俺はこき使われるだけの生活だったが、それももう終わり。

 戦えない年寄りロートルはもはや厄介者だ。

 有望な新人が次々とギルドに入ってきてるので、追い出されるのも仕方のないことだった。


 俺はクビを受け入れる。


「これが退職金だ。ありがたく受け取れ」

「ああ……」

 アーモンドは金袋を無造作に投げてくる。大した金は入っていまい。

 今の三代目ギルマスはとにかくケチくさく、ギルドの運営資金すらもまともに出さなくなっていた。

 だから役立たずの俺をクビにして、もっと出費を減らしたいのだろう。

 ギルマスが金を集めてる理由は知っている。アーモンドも一枚噛んでいるだろう。

 それを責める気はない。もう俺には関係ないからな。


 ただ気がかりなのは、


「少しでも金を貰えるのはありがたいが、心配なことが一つある」

「なんだ?」


「俺の後釜はいるのか? 仕事の引き継ぎをしておきたいんだが……」

「そんなものは必要ない! お前の仕事なんか誰にでもできるわ!」


「……そうか。ならいい」

「明日には王都から出ていけ! 目障りだからな!」

 不機嫌そうな顔して、アーモンドは席を立つ。

 そこに純真だった少年の面影はない。

 後ろ姿を目で追うと、アーモンドは女と何やら話をしていた。チラリとコッチを見て笑ったようだが気のせいか?

 あるいは俺の悪口を聞いたのかもしれない。もはやどうでもいい。

 クビはしょうがないが、俺はガッカリしてうなだれる。自分の居場所がなくなるのはやはり辛い。


「あーあ、王都を出てどこへ行けばいいんだ……」


 最後に村の仲間達と一緒に飲んだのはいつだったかな?

 昔は楽しかった。良い思い出だけが残る。

 今夜は独りだけの寂しい送別会。テーブルには誰もいない……悲しい。


 いたたまれず俺はエールを飲み干してから、二階の部屋へ向かう。酒場は宿屋でもあった……。


 ……あれ? おかしいな? なんだかやけに眠い…………Zzzz…………。



 ……………………

 

「きゃああああああああああー!」

「――――!?」

 絹を裂くような女の悲鳴で目が覚める。

 俺は頭が回らず、寝ぼけまなこをコスって見ると、シーツを体に巻いた裸の女がいた。

 えっ!? なにがどうなった? 俺も裸で理解不能。


 そんなにエールを飲んだ覚えはないのだが、体も動かない。なんか変だぞ? おかしい!

 女に話を聞こうとするが、俺は完全に無視されてしまう。コイツも何かおかしい。


 そこに突然、部屋の扉が勢いよく開く。


「どうしたリステリア!?」

「この男が無理やり私を襲ったのよ、アーモンド!」

「やってくれたなマロン! 俺の女に手をだしやがってー、タダではすまさん! ――あっ、これはギルドの金じゃねーか!? さては盗んだなー!」

「ち、違う! 俺は何もやっていない! 信じてくれアーモンド!」


 退職金が入っていた袋ではなく、ギルドで使ってる特殊な巾着袋である。

 俺が管理していたから分かる。もちろん盗んだ覚えはなく、神に誓って言える。

 だが、この状況では言い訳にしか聞こえないだろう。


「これだけ証拠があるのに、よくウソがつけるなマロン!」

「まあまあ、悪人は自分の罪を認めたりはしませんよ」

「これは神官殿」

「裁判は不要でしょう。この場にて審判を下します。有罪ギルティ!」

「当然だな。衛兵、コイツを連れて行け!」

「はっ! おら立て!」


 あっという間に俺は手を縛られて、連行されてしまう。

 抵抗するのも、無罪を訴えることもできない。

 そもそも神官と衛兵がなぜココにいるんだ? 普段なら神殿と詰め所にいるはず。

 これは俺が起きる前から、宿屋にいたとしか考えられない。


「ふっ」


 捕まった俺を見て、アーモンドと女が鼻で笑った……ああそうか。

 俺はハメられたのだ。裏で糸を引いてるのは三代目ギルマスだろう。

 奴は小心者だから、クビにした俺の復讐を恐れたのかもしれないし、ギルドの評判が下がるのを気にしたのかもしれない。

 俺を犯罪者にしたてあげれば、全てが解決する。俺は理解した。


 あのクソ野郎!


 これで俺の人生は終わった。罪人の行き先はアソコに決まっている。


 もう二度と王都に戻ることはないだろう……。

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