その10

 ピピピ! ピピピ! ピピピ!


「っ!」


 はっとして目を開けると――――そこはいつもの自分のベッドでした。


 じっとりと汗ばむ額を拭います。


 ……恐ろしい夢でした。

 特にあの凍り付いた空気が……。


 頭を振ってイヤな雰囲気を払います。


 十分に睡眠を取ったはずなのにぐったりとしている体を、引きずるようにしてベッドから出ました。


 夕べは失敗してしまいましたが、今夜こそは間違えません!

 正解してみせますとも!


 決意を胸に秘め、僕は学校に行く準備を始めました。





 ……………


 ………


 …


 またいつもの白い霧を抜け、僕は『迷ひ家』へとやって来ました。


「ちょっとヒカル!」


 ……今夜のリセはご立腹のようです。


「何なのよ! この前のボケ逃げは!」


 ぼけにげ?


 いえあれは、


「ボケではありません。

 大マジメです」

「なお悪いわあぁぁっ!」


 すぱぺんっ!


 どこから取り出したのか、ゴム製スリッパでツッコまれました。


 昨日のモコモコ・うさぎスリッパよりも、威力も精神的ダメージも倍増です。


「リセ……そのスリッパは一体……」

「ああこれ?

 なんか『こんなんあると便利だろうなぁ』と思ってたら、出てきた。」


 そんな危険物質を願わないで下さい……。


 明日辺りにはハリセンが追加装備されていそうで、僕は恐ろしくなりました。


 と。そんなことをやっていましたら、


『はーっはっはっ!

 待って居たよ! 二人とも!』


 相変わらずテンションの高い先生の声が聞こえてきました。


 同時に、ぼむんっと水色の煙を立てて、相変わらず車酔いの表情のシグレさんも現れます。


『今日は私に代わり、私の忠実なシモベがお相手しよう!』


「え゛!?」


 急にふられた雨ふりさんがびくりと青い顔を上げました。


「俺!?」

『君も、なぞなぞの一つくらい知っているだろう』


 ……先生、さっそくネタ切れなのでしょうか……。


 シグレさんはうんうん唸って頭を捻り、ふと胸ポケットからあの『夢路合わせの貝』を取り出しました。


 やがて、ひらめいた表情でこう言います。


「――江戸時代の人は、蜃気楼はある生き物が作り出す幻だと信じていました。

さてその『ある生き物』とは何でしょう」


 ええっ!?

 こ、これは難問です!


 僕とリセが顔を見合わせると、シグレさんは親切にも持っていた小さな貝をこちらに向けて、


「ヒントはこの『貝』だ」


 さすがシグレさん! 優しいです!

 しかし貝があまりに小さすぎて、ろくに見えません!


『制限時間は十秒だ。

 ではいくぞ~!

 10……9……8……7……』


 僕たちは、眉間にしわしわを寄せてシグレさんの指先を注視しました。


『6……5……4……3……』


 何か絵が描いてあるようです。

 ですが、それがなんの絵なのか、やはり分からないのです。


『2……1……』

「わかったわ!」

 カウントを止めたのはリセでした。


 おお! 意外にやります、リセ!


「答えは――――ウサギよっ!」


 はぇ?


「な、なにゆえウサギなのですか……?」

「だってウサギの絵が描いてあるじゃない!」


 指摘されて、まじまじ見てみます。


「……リセ、あれは蝶だと思われます……」

「えぇ!? 長い耳があるわよっ!?」

「あれは触角だと思われます……」

「じゃ、じゃあ、その下の赤い目は!?」

「あれは羽根の模様だと思われ……」


 シグレさんは、僕らの答えにがっくりと肩を落としました。


「二人とも不正解……。

 答えは《ハマグリ》でした……」


 ああ、なるほど!

 それでヒントが『貝』だったのですね!


 納得する僕とは裏腹に、リセはぷぅと頬を膨らませると、


「だってウサギだもんっ!」


 さらにそこに追い討ちをかけるように、なぞなぞ魔人、


『雨ふり、君のなぞなぞ、つまらんのだよ』


 ……今、一番ダメージを受けているのは、間違いなくシグレさんでしょう……。

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