エピローグ

「本当にアディは私には勿体ない女性だよ…」


 執務室で手を止めたカイエンは、ポツリとそう呟いた。


「何ですか、突然?侯爵家うちに返して下さるんですか?」


 側で書類の仕分けを手伝っていたダニエルが顔を向けた。

 今日も変わらず姉を溺愛しているようだ。


「返すわけないだろ?アディ以外に誰が私の隣に並べるんだい?」


「そんな方がいるわけないですね!寧ろ、姉上の隣に誰が並べれるんです?」


 フフンと自慢気な顔が向けられ、カイエンは肩を竦めた。


「失礼します。ノクタール侯爵令嬢アディエル様がお見えになりました」


 扉の外から掛けられた声に、ダニエルが素早く扉を開けに行く。


「どうぞ、姉上」


「…ありがとう、ダニエル」


 少しの間を空けて、ダニエルの手を取ったアディエル。

 カイエンはすぐに彼女に近寄って、その身体を横抱きに抱き上げた。


「っ!?」


「カイエン殿下?」


 突然の行動に驚く姉弟に、構わずカイエンはソファーへとアディエルを横たえ、その首筋に手を当てた。


「…ダニエル。侍医を呼んできて。アディ、いつから熱が出てる?」


「い、急いで呼んできます!」


 カイエンの言葉にダニエルが走り出ていく。


「……朝からですわ。どうして、分かりましたの?誰にも気づかれませんでしたのに……」


 気づかれたことで気が抜けたのか、アディエルの体から力が抜けた。


「そりゃ分かるよ。私は君を捉えるために、ずっと君だけを見てきたんだから…」


「っ!!」


 にっこりと微笑むカイエンに、アディエルはゆっくりと身体中を赤くしていった。


「君は目を離すと、すぐにいなくなってしまいそうだからね。いつだって、君を見てるよ♪」


「~~~~っ!?」


「アディ?」


 突然、パタリと意識を失ったアディエルに、カイエンは慌てて二つ隣の寝室へと運んで、自身のベッドに彼女を横たえた。


「アディ、私の唯一無二の愛しい君。まだまだ君をしなきゃね。とりあえず今はゆっくりお休み」


 そっと額に口付けを落とし、カイエンは体を離した。


 その後、侍医にから『疲労からくる発熱』と診断されたアディエルは、しっかりと休養を取らせるための見張りという名目により、王宮のカイエンの部屋にしばらく泊められることになるーーーー。



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