第8話
学園を卒業するまで残り数ヶ月。
夏の長期休暇の事であった。
「………は?グレインが父上と血が繋がってないかもしれない?」
王妃からの指示で、アディエルと共に非公式で訪れていたカーチス領での移動中。
馬車の中でいきなり聞かされた話に、カイエンは茫然となった。
「…不敬とは思いますけれど、気にかかることがあまりにも多くて…。私の思い違いなら良いのですが…」
アディエルが確証もなくそんな話をするわけが無いと、カイエンは信じている。
それにそれが事実ならば、いい加減側妃にはウンザリしていたので、良い機会だとカイエンは思った。
「…いや。間違いでも、それはそれで問題ない。むしろ、予想通りだった時の方が問題だろう。構わないよ。私も手伝おう…」
「でしたら、リネット様にもご協力願いたいのですが…」
アディエルの手を取り、協力を申し出るなり、リネットの名前を出されて、カイエンの動きは止まった。
「……どうして、リネット嬢を?」
「陛下は国内の毒物などには耐性をお持ちですが、国外の物に対しては、どれほどお持ちなのでしょうか?」
「それは……。っ!東国からの物が使われた可能性もあるのか……」
カーチス領は大陸で唯一、海の向こうの東国との貿易を行っている場所である。
そして薬と言えば、医の名門カラディル伯爵家の管轄である。
現在、カラディル一族の中で、最も薬の知識に長け、扱いに詳しい者がリネットだった。
「あー……。そうだね。アディの頼みとあらば、確実に結果を出してくれそうだ」
アディエルを女神とばかりに崇めている彼女である。確実に正確な結果を持ち帰ることは間違いないだろう。
そうして、急ぎで呼び出されたリネットは、引き止めようとしていたエイデンごと、アディエル達の元へ辿り着いた。
そこからはあっという間である。
アディエルの影を使って集めた情報を元に、リネットが東国の商会をエイデンと訪れる。
その間に公務をこなしながら、アディエルは影達に側妃の実家であるバーシェン男爵家の使用人の流れを調べさせた。
不自然な解雇に、不当な理由があるのでは?と、アディエルは国王が滞在した後、すぐに退職した者達を探させた。
王都に戻る頃には、ほとんどの証拠が集められていた。
「さて。これをいつ使うか……」
「王太子の発表の後がよろしいでしょう……。どちらにせよ、その後に王宮を出られることになりますから、グレイン様にはそう痛手にはならないでしょう…」
「………そう…だね…」
発表後。王族のみの場所で事実を述べれば、グレインだけは救えると判断したカイエンは、自分のその判断に苦笑した。
困った兄だと思っていたが、血が繋がらないと分かっても、過ごした日々の情があったらしい。
視線を向けた先に、自分の答えに満足しているアディエルの微笑みを見て、その判断を選べるようにしてくれていたことにも気づいた。
そうして、アディエルが『断罪令嬢』と呼ばれ始める茶番が行われたーーーー。
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