第5話

「…………」


 カイエンの十一歳の誕生パーティーの最中。

 カイエンはいつもと違ってアディエルに落ち着きがないことに気がついた。

 踊っている時も気はそぞろで、話をしていても、チラチラと時折、視線を植え込みの方へ向けているのだ。

 対して弟のダニエルは、露骨に使用人の方を向いている。


「……アディエル嬢。何か気がかりでも?」


「っ!?」


 そっと声をかけると、ビクリと驚かれた。

 そんな彼女の反応を初めて見たカイエンは、ちょっとだけ気分が良かった。


「……その。エクレアお母様がですね……。そろそろ産気づきそうだと……」


 後妻である母親がそろそろ出産予定だとは聞いていたが、どうやら出発前に予兆があったらしく、夫妻は屋敷にいるらしい。

 子供だけの慣れたパーティーだからと、姉弟だけで来たのだそうだ。


「……それは心配だね」


「そうなのです……」


 そう答えると、彼女らしくもない落ち着きの無い様子で、チラチラと植え込みに視線を向けている。


「そこに何か?」


 向けていた先をカイエンが見ながら尋ねると、アディエルは真っ赤になって俯いた。


 あ。初めて見る表情かおだなぁ……。


 また一つ、アディエルを知れたことに嬉しくなる。


「……先程、私の影から手紙が届いたのですけれど、慌てて受け取った際にあそこに落としてしまいまして……」


「夫人の様子かな?」


 カイエンの言葉にコクンと頷く。


「ふぅん…」


 カイエンはチラッと後ろの護衛騎士に視線を向けて頷いた。騎士は頷き返すと、植え込みの中をガサゴソと探り始めた。


「え?あの…」


「気になるのでしょう?」


 困り顔のアディエルも珍しくて可愛いなぁと、カイエンは見つめている。


「…こちらですかね?」


 差し出された小さく折りたたまれた手紙らしき物を、あちこちに葉っぱのついた護衛騎士が差し出した。


「あ、はい。こちらです。ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げるアディエルに、騎士はいえいえと首を振りながら、護衛の位置まで戻っていく。


「……えっと…」


 チラチラと自分を見てくるアディエルが愛らしく、カイエンはどうぞと手を向けた。


「…恐れ入ります…」


 そうして、ソソっと紙を開き、中を見た瞬間浮かべた笑顔は、カイエンが今まで見た中で一番輝いたものだった。


「カイエン様、産まれました!私とダニエルに妹が出来ました!!」


 いつもと違い、年相応に喜ぶアディエルに、カイエンは少しだけ対応に困っていた。

 そのまま彼女らしくもなくダニエルのところに駆けて行き、妹の誕生を二人で抱き合って喜んでいる。


 腹違いの妹の誕生に、それほど喜ぶと思っていなかったカイエンだが、自分の弟妹達のことを思い出し、歳が離れていると、あんな風に喜ぶのだなぁと思いながら、母親達の元に報せに行くのだったーーーー。


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