第2話
「やあ、アディエル嬢。私と婚約してみないか?」
エイデンとダニエルの剣術の練習を見に来ていた彼女に、笑顔でそう言った。
「まあ、殿下。私は相応しくございません。お断りしますわ♪」
愛らしくにっこり笑って断られた。
またある日は、二妃様のお使いで訪れた侯爵家の庭園で、お茶をご馳走になっていた時、
「ねえ、アディエル嬢。私の婚約者となって、支えて欲しいんだけど…」
強請るように視線を向ければ、
「申し訳ございません、殿下。私には荷が重いです」
口元に笑みを浮かべ、きっぱりと断られた。
王子である私に怯えることなく、淡々と断る令嬢など彼女くらいだ。
「…さて、どうしたものか…」
この二年。事ある事に、ファーストダンスを一緒に踊っているからか、周囲は彼女が私の婚約者に決まったと思っているというのに、肝心の彼女からの了承は未だに貰えていない。
外堀を埋めていっても、肝心の本陣がなかなか落とすことができないのだ。
方法を模索していたある日、私の部屋を訪れていたエイデンが、ふと質問してきたのだ。
「兄上、何で二年も断られ続けてるの?」
「…………」
聞かれた私は、言葉を失った。言われるまで考えたこともなかったのだ。
何故、アディエル嬢に自分は断られているのだろうか?
こんな疑問がどうしてすぐに浮かばなかったのかと、自分でも驚いてしまったが、エイデンの問いは、そのまま私自身も気になることとなった。
となれば、当然。アディエル嬢に聞くことになるわけで……。
「……カイエン様、話が違いませんか?」
十歳の誕生パーティーでも、当たり前のように彼女とファーストダンスを踊っていると、そう文句を言われた。
周りにバレないように話すため、にっこりと笑みを浮かべたまま、器用に不機嫌な声でそう言ってくるのだ。
「アディ。文句は母上達に頼む…」
「…くぅ…」
母上達が純粋に私達が踊る姿を楽しみにしていると知っている彼女が、文句なんか言えるはずもなく、役得だと思っている私も言うわけが無い。だから都度都度、彼女が相手に選ばれているのだ。
「周りからも私の婚約者はアディで決定だと思われているのに、どうして断るのかなぁ…」
侯爵からも、彼女の了承が貰えるならと、言われているのだ。
笑みを浮かべつつ、溜息をついて見せると、
「王家に嫁ぐのはお断りします!」
にこやかに、いつも通りにきっぱりと断られた。
「ふむ…」
王家にと言うのならば、王族で無くなれば受けるということになる。
つまり、ちゃんと断る理由があるということだ。
ならば、それを聞き出せばよいのだ。
私は彼女を庭園へと誘って移動した。
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