第1話

 侯爵令嬢アディエル・ノクタール。


 とにかく彼女は私の興味を引いた。

 もちろん、最初はその容姿に引かれたことは間違いないが、彼女は他の令嬢達と違い、私に媚びない。

 いや、むしろ私にのだろう。


 誰もが喜ぶ私の微笑みと言葉を、まあ見事なまでに微笑み一つで交わしてくれる。


 ……いや、あれは関わりたくないと逃げているような気もする。


 逃げられれば追いたくなるのは、仕方がないではないか。


 ましてや、彼女はあの年で既に影をいるのだ。


 グレインの一件では、数日してから、父親である侯爵か、二妃様の使う影が手を貸したのかと思い直していたが、その後も違和感を感じることが多くあり、ついつい二妃様にお聞きしてしまったのだ。


「二妃様。ノクタール家に仕える影達は、あらかじめ使える主が決められているのでしょうか?」


「…………」


 さすがに率直に聞かれるとは思わなかったらしい二妃様が、目を見開いて固まる姿を初めて見た。


「……また、唐突ですわね…」


 身内しかいないせいもあるだろうが、二妃様は普段の作られた口調ではなく、素で話してくださった。


「影には主にという忠誠を誓わせる代わりに、仕える主をという誓約があるのです。ですから、わたくしがわたくしの影にアディに従うように申せば従いますが、アディにということはございません。仕えるような事があるなら、それはわたくしが死んだ後の事となるでしょう」


 二妃様のこの説明で、私は確信した。


 アディエル嬢はあの年で、既に影にのだ、と。


 そんなのに決まっている!


 母上達に協力を頼み込み、時間の許す限り彼女に接触した。


 私自身に使える影も使い、手に入るだけの情報を全て集めていった。


「……いや。これは明らかにバレてるぞという意趣返しだろ…」


 時々、私自身の情報が混ぜこまれていることが増えてくると、ますます楽しくなってきた。


 彼女アディエルは私のためのだ。


 それを確実に手に入れるために、私は色んな手段を考えた。


「良いか、カイエン殿っ!狩りに必要なのは観察力だっ!!」


 三妃様に叩きこまれた狩りの基本。

 それは獲物をしっかりと『観察』することだった。

 そして、それは人相手の交渉毎にも有効なのだと、二妃様からも教えられている。


 なので、私は根気よく彼女を観察することにした。


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