エピローグ


「エイデン様っ!お聞きになりまして!?」


 カラディル伯爵家に会いに向かえば、到着するなりホールでのリネットの開口一番がである。


「えーと。何の話かな?」


 まあ、聞かずとも誰の事を言ってるのかだけは、嫌ってほどに分かるのだが…。たまには自分を話題にして欲しい。


 エイデンはそう思いながらも、庭園にセットされているテーブルへと向かう。


「巷で呼ばれているアディエル様の事ですわ!」


 その事なら知っていた。それを聞いた兄は口を押さえ、肩を震わせながら笑いを耐えていたし、ダニエルは怒髪天だったし、当の本人アディエルはにっこりと微笑んだだけだったのだから。


『断罪令嬢』


 第一王子グレインからのを、完膚なきまでに反論し、解決して以来、次々と持ち込まれる相談を解決していく彼女に付けられた二つ名である。


 リネットは、義姉上を尊敬してるからなぁ。この呼び名にダニエルみたいに怒ってるのか…。


 今日は愚痴を聞くことになりそうだと、エイデンは覚悟を決めた。


「『断罪令嬢』…。そう!『断罪令嬢』っ!!…っなんて、アディエル様に相応しい響き♡」


「……え?」


 予想の斜め上の展開に、エイデンは手にしたカップを落としかけた。


「裁きの女神【エスカテリネ】の如く、美しく毅然で聡明なアディエル様に、何と相応しい呼び名なのでしょうかっ!!」


 ………あ。これ、しばらく僕が忘れられるやつだ…。


 そこからは怒涛の如く、リネットによるアディエルの断罪の数々とその手腕が語られ続けていた。


「…はぁ♪何という至福でしょう…」


「…君が幸せそうでなによりだよ」


 昼前に来たというのに、もう夕暮れである。

 リネットが語っている間に晩餐に招かれることも決まっていた。


 しかし、アディエルを語るリネットの姿も好いているため、何も言えない。はぁと小さく溜息を漏らす。


「わたくしが幸せであれるのは、エイデン様が見捨てずに見守ってくださってるからですわ♪」


 不意に聞かされた言葉に、視線を向ける。


「これからも、わたくしがアディエル様の成されることを、近くでがっつりと堪能できるよう、見守ってくださいませ、ね?」


 にっこりと笑って、首を傾げたリネットの愛らしさに、エイデンは自分が義姉にもリネットにも勝てる日は来ないと思い知らされたのであったーーーー。



[完]


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