第8話
「ねえ、リネット。君は僕の婚約者だよね?」
「エイデン様が解消されてないなら、そのはずですわ?」
僕の問いかけに、不思議そうに振り返って答えるリネット。
今、僕達はカーチス領に来ている。
兄上達と同じ場所を別の視点からもも視察したいという名目でだ。
調べる内容が内容だけに、兄上達が動くには目立つ。
だけど医術に長けたリネットのカラディル伯爵家なら問題ないという理由で、リネットが独断で引き受けていたのだ。
……そう。本来は彼女一人が来るはずだった場所に、彼女を心配した僕が割り込んだのだ。
「…うーん。やはり、東国の料理が怪しいですわね…。という訳ですので、そこの専門店で昼食に致しましょう!」
リネットは僕の手を握ると、スタスタと目的の料理店へと向かっていく。
あぁ…。アディエル義姉上の頼み事だけに、張り切りまくりだよ……。
そう。アディエル義姉上の役に立てると張り切った結果。リネットは見事に僕達が産まれる前の事件の真相を暴くための鍵を見つけ出した。
その情報を渡してからの義姉上は、どんな手段を用いたのか、わずか半年ほどで証拠も裏付けも証人も揃えてしまった。
「はぁぁぁっ!!すごいです…。すごいですわっ!
わたくしが見つけて帰った、たった一つの香辛料の情報だけで、これほど完璧な証拠を集められただなんて…」
兄上の執務室に呼ばれ、リネットと訪ねてみれば、そこには兄上と義姉上が書類片手に話し合う姿があった。
そこで二人から渡された書類の内容に、愕然としている僕の隣では、義姉上の手腕に感動し、打ち震えている僕の
経緯はともかくとして、それならに交流を深め、自分なりに彼女に特別な感情を持っているのだが、自分の想いを理解してもらえるまでの
道程はまだまだ遠そうだ。
「……ねぇ、僕のリネット。僕よりも義姉上の弟のダニエルと婚約した方が良かったんじゃないかな?」
「…まあ、何故でしょうか?」
あまりにも虚しくなって、馬車まで送る最中に、僕は思わず訊ねていた。
「エイデン様でも、ダニエル様でも、アディエル様はわたくしの義姉になりますわ?」
「あ、うん。そうだね…」
「ですが、ダニエル様は好敵手としてアディエル様のお役にどちらが立てるか競っておりますの!」
……え?待って。ダニエルもなの?ダニエルも君と同じなの?
右手を握りしめて語り出すリネットに、頬が引き攣った。
「その点、エイデン様は、わたくしがアディエル様の事をお話しても、ちゃんと聞いてくださいますし、何よりダニエル様より権力をお持ちです!」
「…………」
権力…。うん、王族としての権力ね…。
がっくりと内心思ってしまう。
「わたくしとの婚約をお受けくださったエイデン様には、本当に感謝しておりますわ♪」
そう言って、僕に笑いかけてくるリネットは、打算も媚びもない笑顔で、僕にはそれが嬉しかった。
……とりあえず。兄上が別れたら、僕まで別れる羽目になりそうだから、気をつけていよう……。
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