第7話


 ………奇跡が起こりました。


 わたくし、エイデン様の婚約者になれました。


 今日は婚約者に選ばれてから、初めてのエイデン様とお会いするのです。しかも、その後……。


 そ・の・あ・と・に!


 カイエン様ばかりか、アディエル様もご一緒のお茶会。


 ……神様はこの世にいらっしゃいましたっ!!


「……………」


「お嬢様。そろそろ出ぱ…、お、お嬢様ーーーーっ!!」


 変です。遠くの方で、わたくし付きの侍女アナベルの悲鳴が聞こえてきます。

 そして、周りは真っ暗です。


 あら?何だか体もフワフワしてますわ?




「ふ…、ふぅぅ…」


 情けないです。わたくし、興奮のあまり過呼吸で倒れてしまいました。

 当然、お茶会も中止です。


「…死にたい…」


 そんなどん底状態のわたくしでしたが、慌てて部屋に飛び込んできたお母様に目が点になりました。


「お…お見舞い…。第三王子のエイデン殿下がお見舞いに来られてます…」


「……」


 パタン。


 わたくしはベッドに横になりました。

 何て夢を見てたのでしょう。さすが夢です。わたくしに都合が良すぎました。


「お、お待ちくださいませっ!!」


 と、アナベルの叫び声が聞こえました。


「やあ、リネット嬢。体調は大丈夫?」


「……は?」


 体を起こせば、そこには何故かエイデン様がいらしてました。


「き…、きゃあああっ!!」


 淑女の寝室に無断で入ってきやがりましたわ、この方っ!!


「うっわ、叫ばないでよ。ごめんごめん。これ、早く君に渡してあげようと思ってさ」


 涙目で顔を向けると、その腕の中にはかすみ草だけの花束がありました。


かすみ草これ、君の好きな花でしょう?アディエル嬢が選んだんだよ…」


 つかつかと歩いてきたエイデン様は、かすみ草それから目を離せないわたくしの手を取り、渡してきました。


「……アディエル様が選んだ?」


「そう。アディエル嬢が、君に贈るならかすみ草これって、うっわ!何で泣くのっ!?」


 嬉しさの余り涙が溢れ出ました。

 エイデン様が慌ててハンカチを取り出して、涙を拭いてくれますが、止まる気配がありません。


 数年前のお茶会で、アディエル様とお話出来る輪の中に、少しだけ入れたことがあったのです。


「好きな花…ですか?」


 どなたからだったのか、その質問にアディエル様は右頬に手を当て、こてんと左側に首を傾げました。


「…困りましたわ。華やかな物も、ひっそりと咲く物も、それぞれに良さがあって好きなのですもの…」


 そのお言葉に納得しつつ、わたくしの番になりました。


「わたくし…わたくしはかすみ草が好きです……」


「かすみ草…ですか?」


 バラや百合。ダリヤなどの華やかな物が語られる中、わたくしのそれは、皆様に不思議そうな顔をされました。


「素敵ですね♪」


 そんな中、アディエル様だけがそう言って下さいました。


「バラも百合も一輪だけでも、勿論美しいですけど、かすみ草が加わると、一際鮮やかに生えますものね。かすみ草あってこそ、さらに美しさが目につくのですわ」


 にこやかに微笑んで、そう言ってくださった。

 わたくしが好きな理由と同じことを気づいてくださった。

 それだけでも嬉しいのに、数年前の一度きりの出来事を覚えていてくださった。


 わたくしはアディエル様という大輪の華を際立たせるためのかすみ草になりたかった。


「…エイデンざばぁ….。うれじぐで、しにぞぉれす…」


「……それは良かったね。でも死なれると僕もアディエル嬢も困るから、早く元気になってね…」


 その日いただいたかすみ草は、ドライフラワーにして、栞やカードなどにして保管しておりますわ!




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