第3話


 わたくし、アディエル様をお支えすると心に決めてから、五年間。一生懸命頑張りました!


 東国から、西国。果ては北の僻地に至るまで、ありとあらゆる毒薬や薬に関する知識を集めました。


 その中には、媚薬と呼ばれる物もあれば、人以外にも使う物だってありました。


 民間療法なる事柄とて、眉唾物などと言わずに頭に叩き込み、


「…リネット。お前にはもう、一族で適う者がいないね…」


 と、お父様からは呆れられ、お母様に至っては、嬉々として自らの体でクスリを試すわたくしに、数歩ばかり引いて接するようになられました。


 そんな折、数日後にカイエン様の十一歳の誕生パーティーが開かれるという頃。

 内密にわたくしはカイエン様に呼び出されたのです。


 呼ばれた王宮に訪れてみれば、同じ部屋に数人のご令嬢が集められていました。

 五年前の茶会で見た顔ぶれです。ですが、アディエル様のお姿がありませんし、例の伯爵令嬢もいらっしゃいません。


 これは、側妃の選定結果の通達でしょうか?


 ですが、他の方々はいざ知らず。わたくしは最下位の側妃となる事が決定していたはずです。


 首を傾げながら待つこと数刻。現れたカイエン様に、他の皆様が期待に目を輝かせていらっしゃいます。

 特に、アディエル様の次点と言われていた伯爵令嬢は、アディエル様が不在なので、自分が婚約者になれると思うなどと、夢物語を口にしておいででしたから。


「今日はこのような形で呼び出してすまない」


 にこやかに微笑むカイエン様。

 ですが、その瞳の奥に冷たい輝きを感じ取ったのは、わたくしだけでしょうか?


「まずここにいる君達は、みな私の妃候補で…」


『?』


 。というお言葉に、皆が首を傾げます。


「私は婚約者をアディエル・ノクタール嬢にすることを決めている。そして、妻もにすると誓っている」


 そのお言葉に、場が騒然となりました。

 今、カイエン様の仰ったお言葉は、位持ちの側妃には役目しか求めないということだからです。


 ですが、わたくしには問題ありません!むしろ、大歓迎ではありませんかっ!!


 ですが、喜んでいたわたくしは次のお言葉に打ちひしがれたのです。


「ああ、勘違いしないで欲しい。側妃も。本来、妃の足りぬ所を支えるのが位持ちの側妃の役目だが、アディエル嬢の不足を補えるような者などいないだろう?」


 正論です。誰からも言葉が出ません。

 当たり前じゃないですかっ!!ここにアディエル様より秀でた事を持てる者などいるわけがありませんっ!!


 ですが側妃に慣れないということは、アディエル様をお支えすることが出来ないということです。


 …………終わった……。


 わたくしの周囲は賑やかになってましたが、そんなことはどうでもよいのです。

 肝心な事は、アディエル様をお支えする為に費やしたわたくしの五年間を、どうすればよいかという事です。


 目の前が真っ暗になったわたくしは、そこに力尽きたかのように座り込んでしまいました。



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