第2話


「お父様っ!!わたくし、絶対に、絶っっっっ対に、アディエル様にお仕えしたいですわっ!!」


 お父様が帰宅するなり、そう叫んだ私に、お父様はポカンとお口を大きく開かれました。


「あー…。リネット?ひとまず落ち着いて、話してくれるかな?」


「勿論ですわ、お父様っ!アディエル様がどれだけ、わたくしが仕えるに相応しいお方なのか、お話しますわっ!!」


 興奮するわたくしは、着替えに行かれたお父様を、食堂でお待ちすることになりました。


「さて。今日のお茶会で、何があったのかな?」


 お父様の言葉に、わたくしはを思い出し、うっとりと語りだしましたーーーー。




 着替えて戻ってきたアディエル様は、すぐに仲の良い方々に囲まれて、お話を楽しまれていました。

 そこへ何処からか戻ってきたグレイン様が、アディエル様へと向かおうとした時の事です。

 グレイン様の足元に頭上から大きな蛇が落ちてきたのです。


「う、うわああぁぁっ!!」


 パニックになったグレイン様が、悲鳴を上げながら逃げ回りますが、蛇はグレイン様ばかりを追いかけていました。


「…あら?」


 逃げるグレイン様が、わたくしの隣を走り抜けた際、嗅いだ記憶のある香りがフワリと漂いました。


 わたくしの生家であるカラディル伯爵家は、医術に長けた一族として、王族の毒味役や侍医として仕える者が多いのです。

 そのため、幼き頃より男女を問わず、毒や薬を体に慣らしています。

 先程グレイン様から漂ったのは、蛇寄せに使われている『ウバミ』と呼ばれる花の香りでした。

 ですが、『ウバミ』は山間部にしか生えていません。なのに、どうしてグレイン様からその香りが漂ってきたのかと、視線を向けた時です。


 グレイン様は前を見ていなかったせいか、アディエル様に向かって走っていたのです。


「危ないっ!」


 そう叫んだ時、わたくしは信じられない光景を見たのです。


 突っ込んできたグレイン様を避けながら、アディエル様が足を引っ掛けていったのをーー。




「アディエル様は、やられっ放しのままでいられる方ではなかったのですわっ!」


 しかも、周りに気づかせることなくやり遂げられるあの手腕。


「……あの方にお仕え出来るならば、わたくし、劇薬すら飲み干して踊れそうです…」


 両手を握りしめ、うっとりとアディエル様のお姿を思い出しながらそう伝えると、


「……いや、リネット。劇薬を飲み干すのは止めようね…」


 と、お父様に言われました。


「お父様っ!わたくし、の数を増やしますわっ!!ついでに、おじ様方にお願いして、他国の物も手に入れて下さいましっ!」


「…やる気があるのは良い事だけど、命に関わることだからね。程々にしなさい…」


「程々だなんて、お父様…」


 ムッと口を尖らせたわたくしに、お父様は溜息をつかれました。


「リネット…。無理をしてお前に何かあれば、アディエル様に仕えることはできなくなるよ?」


「確かにっ!!」


 お父様の言葉に納得したわたくしは、我が家にあるだけの物では足りず、他国からも取り寄せて毒を慣らし始めました。


「アディエル様の健康は、わたくしが守ってみせますわーーーーーーっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る