第1話
その方に初めてお会いしたのは、五歳の時に招かれた王家主催のお茶会でした。
ふと横を向けば、大人しそうな令嬢を、数人の子息の方々が囲んでいらっしゃいました。
身分の低さや服装に文句を言っているようですが、ご両親から今日のお茶会が何を意味するのか聞いていないのかと、呆れていました。そんな折のことです。
「一人のご令嬢を殿方がそのように囲むなんて、見苦しいですわ…」
一人のご令嬢がその囲みの中に入り、件のご令嬢をその背に庇われたのです。
「「「「「なっ!?」」」」」
凛とした態度で、ハッキリとそう言ったご令嬢は、艶やかな黒髪の半分を、緩く後ろで結んでいました。
黒髪。
今日のお茶会は、第二王子カイエン様の妃と側近の候補を選ぶためのものでした。
その中で、どちらも共に最有力候補に上がっているのが、この会場内にたった二人だけの黒髪の侯爵令嬢と侯爵子息。
そう。黒髪のご令嬢は、『ノクタール侯爵家の黒真珠』と呼ばれているアディエル・ノクタール様だったのです。
アディエル様は、怯えているご令嬢を先へと促し、ちらりと子息達を目にされました。
「今日のお茶会は意味あっての事でございましょう?招いた側が招かれた側を悪し様に言われるのは如何なものかと思いませんか?」
それは目の前にいた第一王子グレイン様に向けて言われていました。
第一王子とは言いますが、グレイン様は位のない側妃の子。王位継承権があると言っても最下位。しかも成人する十八歳までの事。成人すれば臣籍降下か、平民になるかの二択です。
なのに、どうして上から目線で偉そうなのか、理解できません。
そして、そんなグレイン様を注意するアディエル様もお人がよろしいと思えてしまいました。
「この俺に意見するとは、生意気な女めっ!!」
図星をさされて悔しかったのか、グレイン様はそう叫ぶと、アディエル様を突き飛ばしたのです。
バシャーン!
大きな水音を上げ、アディエル様は背後にあった噴水のある池に倒れ込み、水浸しになってしまいました。
「………」
池に座り、茫然とされるアディエル様。
「ふん!そこで頭を冷やしてろっ!!」
グレイン様は腕を組んで偉そうにそう言い捨てると、オロオロしている取り巻き達を連れてそこから離れて行きました。
……なんて愚かなんでしょうか。
相手は貴族の筆頭ノクタール侯爵家の令嬢にして、王太子の婚約者最有力候補です。
ちなみにわたくしは家の都合で、位持ちの最下位側妃となることが、既に決定しています。
王太子となる第二王子カイエン様の選ばれる方が、支えるに値するかを見定めるのが、わたくしの今日の茶会の役目です。
ふと気づけば、カイエン様の計らいで、アディエル様が着替えに行かれました。
「…上に立つには良い方かも知れませんけど。やられっ放しだなんて、頼りないですわね…」
わたくしの背後からそう話しかけてきたのは、殿下より二つ上の伯爵令嬢でした。
確か、この方も候補でしたね……。
候補ですが、無理やり入り込んだように聞いてます。うるさいので、とりあえず入れただけと伺ってます。
「…頼りないならば、それを補える側妃がいればよいのでは?」
「っ!?」
にっこり笑ってそう返すと、物凄く睨まれました。
三つ下のわたくしに言い返されて怒るなんて、位持ちの側妃も無理じゃありませんか?
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