第3話
「良いですか、陛下。グレインは王籍をいずれ抜ける身であれど、現在は第一王子なのですよ!」
他の子供達と露骨に差をつけようとする国王は、度々そう言って王妃に注意をされていた。
「そうですわぁ。そもそもグレイスくんでなく、悪いのは引っかかった陛下ですものぉ」
「うぐ…」
二妃の言葉が突き刺さる。
「そうそう。
と、三妃にまで言われれば、マクスウェルに反論の余地はない。
どの子にも平等であるように振る舞うようになった。やらねば、二妃の口撃か三妃の鉄拳制裁である。
しかし、やはり疑問だったのだろう。
ある日、グレインはそれを口にした。
「二妃様も三妃様も、王妃様とお茶会やパーティーに行くのに、どうして俺の母上はお留守番なのですか?」
口を尖らせたグレインに、内心ムッとしたマクスウェルだったが、彼が答えるより先に、カイエンが口を開いた。
「側妃様は出席するために必要なマナーをご存知ないとお聞きしたよ?グレインから、一緒に行きたいから学びましょうとお願いすれば?」
グレイスが育てた割には、グレインは素直だった。そのため、彼は素直にそのまんまの言葉を母親に伝えた。
「ええ、そうね!貴方を守れる場所に居なければっ!!」
持ち前の(自分に都合のいい)思い込みを発動し、彼女は息子が虐められていると勝手に思い込んで、本当に必要最低限なだけのマナーを身につけ、社交に出るようになった。
しかし、夜会では王妃達の後での入場だし、位がないという理由で、王と踊ることもなく、歯ぎしりをしながら妃達を睨んでいた。
さて、余談であるが、グレイスのハニトラ以降、マクスウェルは妻であるエリザベス以外の女性とは床を共にしなかった。
しかし、位持ちの側妃達が妊娠しないのもあまり宜しくない。
まして、位のない側妃がいる以上、必要だからとせっつかれる始末。
とうとう彼は、泣きついた王妃に一服盛られて、二妃と三妃との間に子供を設けさせられた。男としての尊厳など、考慮されなかったが仕方ない。
「陛下のお相手は、金輪際ごめんですわ♪」
「子供を一人産んだんだから、文句ないだろ?寧ろ、ベスとの子を増やせ!公務はワタシ達が引き受けた!」
つまり、第四王子が生まれたのはこういう事である……。彼は喜んで頑張った!
マクスウェルは子供達。特にグレインのいる場所では、妻の誰一人にも必要以上に触れなかった。
触れれば、「何故グレイスには触れないのかと聞かれるぞ」と、エリアナから聞かされていたからだ。
断言しよう。
彼はグレイスが後宮入りしてから、一度たりとも部屋を訪ねたことはない。
自室に呼んだこともなければ、人前で会話することも無い。
それでもグレイスは、第一王子を産んだ自分が最も優遇されていると信じていたし、それを幼い頃から毎日聞かされていたグレインも信じていた。
ドレスも宝石も、欲しい物は手に入っていたし、周囲からは美しさを称えられていたから、グレイスは疑うことをしなかった。
本人は気づいていなかった。
美しさしか褒められていない事に。
使用人達からしたら、
だって彼らの本当の主は違うのだ。
必要最低限の関わりで、主の望み通りに動くだけ。
そんな訳だから、グレイスは知らなかった。
自分の使っていたのが、グレインだけに与えられていたお金だということを。
位のない側妃は、自身の生家の援助で生活するということを。
囚われた牢の中。最初から最後まで、懇切丁寧に子供でも分かる説明をされたグレイスは、「知らなかった」と泣きじゃくる。
泣いて許されるのは赤子だけである。
そして、グレイスには更なる罪が見つかった。
姦通罪である。
国王の渡りが無いことに不満を持ったグレイスは、身分が低く、見目の良い好みの男達と関係を持っていたのだ。
子供の父親が国王でなかったとしても、後宮内に許可のない男達を招き入れていただけで罪である。
これもまた「陛下がアタクシをほっておいたからですわぁっ!!」と、泣き叫んだが、同情されるわけもなく。
「使い込んだ金は、お前が働いて返せっ!」
三妃の言葉により、二妃が勤め先を斡旋した。
鉱山のある領の娼館である。
「良かったですわねぇ。たくさんの殿方が、貴女を求めてくださいますわよぉ♪」
送り出されるその日。
グレイスの前に現れた二妃エリアナは、にこやかに微笑んでそう告げた。
三人の王の妻。一番危険なのは二妃のエリアナであった。
その事に気づいても、既に何もかもがバレた後。手遅れでしかないのだ。
「貴女が陛下をたぶらかそうと、ぜぇんぜん。まあったく、どうでもいいのですけどぉ。わたし達の可愛いベスに迷惑をかけたことだけは許せませんわ。だから…ね?」
スッとグレイスの耳元に口を寄せる。
「貴女に相応しい場所で、貴女にぴったりの仕事を思い知るといいわぁ♡」
送り出されたグレイスは、その後、生かさず殺さずな状況で、死ぬことを許されないまま過ごすこととなったーーーー。
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