第2話
位持ちの側妃の後宮入りは、王妃の物より小さめの規模ではあるが、ぶっちゃけ普通に婚姻である。
小規模ではあるが、婚姻式もあるし、お披露目もある。
これに対し、位のない側妃は何の儀式もなく引っ越してくるだけ。
本来ならば、数人の侍女を連れてくるのだが、グレイスは身一つだという。
ならば、する事は決まっている。
二妃の後宮入りと同じ日に、グレイスを後宮入りさせれば良いのだ。
それにより、式典で二妃に注目が集まり、誰もグレイスに目を向けない。
ついでに周囲の使用人は、こちら側の者達を置いておけばよい。
何故なら、位のない側妃の意味を、正しく理解出来ていないのだ。
後宮勤めの使用人の言葉を疑うこともないだろう。
グレイスの後宮入りに難色を示していた高官達は、エリアナからの提案に便乗した。
グレイスの部屋は、最も国王や王妃から離れた場所にある離宮とも言える場所にした。
本来は、側妃の賜るような所では無いのだが、側妃となった事に喜ぶグレイスは気づかなかった。
当然である。
エリアナとイザベラは、少しでも王妃であるエリザベスに害意を向ければ、叩き出すつもりだったのだから。
使用人達もグレイスの前だけでは味方につくような発言をしていた。
後宮入りしてから、一度も王が部屋に来ていないというのも、
「御子様を安心してお産みになれるようにと、距離を置かれておいでなのですよ」
という使用人の言葉に、寵愛されているなどと、自分の都合のいい様に解釈していた。
実際は、悪阻で苦しむ王妃の側にオロオロしながらくっついていたのだが、そんなことが耳に入ることは無い。
何しろ後宮入りしてから、グレイスはずっと傍若無人に振舞っていて、誰からも好かれていなかったから。
そろそろ出産という頃には、三妃の後宮入りが重なった。
表向きは出産のために公務を離れる王妃を、二妃と共に支えるため。という名目での、これまたグレイスの出産を有耶無耶にしてやろうという魂胆である。
そしてお約束なのか、三妃の後宮入り前日から、グレイスは産気づいた。
苦しんでも苦しんでも、王が労いに来ることは無かった。
計算通りである。
三妃との婚姻式の最中だ。まして、血は繋がっていてもいずれ王籍から外れる子。薄情かも知れないが、グレイス以外からは望まれていない子なのだ。
披露パーティーの最中、出産の知らせを届けたものの、「御苦労」の一言ですら、侍従任せであった。
その二日後。今度は王妃が産気づいた。
後宮は上に下にと大騒ぎだったが、グレイスは気づかなかった。
出産後から、異様なまでに眠気に襲われていたのだ。
「気疲れからでございましょう。ゆっくりとお体をお休め下さい」
と医者に言われて、産まれたばかりの子供を乳母に任せて、ひたすら寝ていた。
実際は子に乳をやる気配がなかったので、遠慮なく薬で眠らされていたのだが、グレイスは気づかない。
何しろ自分の子は第一王子だ。次の王となるのだから、瑣末な事は気にしない。
あの断罪の瞬間まで、彼女はずっとそう信じていたのだ。
しかし、王妃の出産後に、二妃の懐妊が判明すると、グレイスは王への取り次ぎを願った。
産後で寝込んでいる王妃と、妊娠して夜会を控えている二妃の代わりにと、自分を選んでもらおうとしたが、ならば必要な知識を身につけろと言われたが、自分しかいないのだから、大丈夫だとまともに覚えなかった。
彼女は三妃が嫁いでいたことを出産のドタバタで忘れていた。
しばらくして、社交には三妃が共をし、王は後宮の王妃の部屋に入り浸っており、すぐ側の二妃の部屋にも、様子をよく見に行くと聞いたグレイスは、自分の立場に慌てた。
王妃の子も王子だったからだ。
我が子の命が危ない!
そう思ったグレイスは、口を開けば「お前は王になるのだから…」と言い聞かせた。
それを耳にしている使用人からすれば、「こいつ、何言ってんだ?」というとこである。
何しろ、位のない側妃の子は、成人すれば王籍から外されるということは、普通に教育を受けていれば知っている事だからだ。
外見磨きにしか興味のなかったグレイスには、欠片もその知識がなかった。
しかし彼らは、成人すれば親子共々出ていくのだから、王妃達に害がなければ問題ないと放置した。
しばらくすると、二妃が出産した。こちらは王女だったが、その翌年に、三妃が第三王子を産み、さらに二年後には王妃が第四王子を出産した。
グレインと名付けられたーーグレイスは自分に似た名前ではなく、王に名付けを望んだが却下されたーー王子が、五歳になるくらいから、カイエンと共に家庭教師を付けられた。
しかし、
この事を、グレイスは王妃達の命令で教師達が嫌がらせをしているからだと、思い込んだ。
実際は、教育など最低限でいいだろうと言う国王に対し、産まれた子には罪はない!と怒った王妃によって、平等に教育を受けれるようになっていたのだが、自分可愛さに長けたグレイスに理解出来るはずもなかった。
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