第4話 花

 

竜介が研究所を脱走してからもう二時間は立つ、竜介は、その森林の中をしばらく走っていた。左手には研究室にあった剣を持ち、できるだけ研究所から離れるため、ただ全力で走っていた。


 暫く走っていると足裏に感じた土の感触は消え今度はコンクリートのような固まった地面の感触になっているのを竜介は気づいた。


 そしてあれほど生い茂っていた先ほどの森林と比べ何らかの違和感を感じた。

 竜介はあたりを見渡してみると木の根が一面に張り付いた建物らしき物が幾つか連なっており竜介の立っている地面には白い線が横に何本と書かれていたその先には同じようにツルや根が張り付いた信号機らしきものもある。


 どうやらここは町のようだった。


 そしていま竜介が立っているのはその町の道路の真ん中だった。

 横断歩道を渡ると新たな建物の輪郭が現れ始める、見た目は全体的に四角くその建物の前には門のようなものもある、そしてこれが学校の校舎であると分かった。


他の建物同様に木の根やツルが全体的に張り付いていた。

多分近づかなければ分からなかっただろう。

学校の隣には一際目立つ巨大な建物があった、竜介はその建物に近づくと看板の標識にカタカナで文字が書かれている。


(アン・・・・公園 北ゲート)


 どうやらこれは公園のゲートのようだった。

 竜介はそのゲートを通り園内に入ると顔が太陽みたいな形をしている「平和を呼ぶ」と書かれた一つの巨大な像があった。竜介は竜介はその像を少し眺めた後、像を通り過ぎそのまま園内の奥に入っていった。


 木のツルや根が覆いかぶさるかのように生えた地面は不思議と綺麗で静寂、鳥のさえずりさえ聞こえた。


 暫く一本道を導かれるように進んでいくと今度は広場があった、広場の中には巨大な滑り台のような遊具があり広場の隅っこの森には木で出来たアスレチックもあった。


 どうやら本当に公園らしい、竜介はさらに園内を進んだ。

 今度は一つのヨーロッパ風の橋がある竜介はその橋を渡ると渡った先には花畑がありその中枢に幾つかの風車があった。


 すると上から白い粒が降ってくる、雪だ。竜介はその白い氷の粒を見ていると、突然、目の前がチカッとまるでカメラのフラッシュのように光り始めた。


すると再び脳裏に何かが映し出される、島の光景だろうか?その島が突然巨大な光に包まれて、そして気づくと雪のように白い粒が舞い落ちてくる。


その景色を見た瞬間、竜介はこの白い雪がまるで「死の灰」に見えて、恐怖そして怒りの感情が芽生える。

それは、まるでトラウマを思い出し復讐に囚われた奴のように。

竜介は怪獣と化してしまった左腕を上げると、怒りに身を任せ殴り付けるように拳を地面に叩きつけた。


その瞬間、周囲の地面に亀裂が入った。

その時にはもう、先ほど脳裏に映っていた光景は消えて怒りも恐怖も感じなくなった。


まるで悪夢から覚めたかのように目に映っているのは自分が殴って出来た巨大なクレーターだった。

今の光景はなんだったんだろう?でも明らかに夢なんかじゃ無い、これは記憶?――

そんな事を思い浮かべながらも、竜介はすぐに冷静を取り戻して何処か身を隠すところを探す。


 その間にも雪の降りは強くなって行き気づけば吹雪になっていた。

 フゥウウウウ、と不気味な風の音が響く、竜介が息を吹けば白い靄が立ちこめる。

 暫く園内を探していると一つの小屋を見つけた。


見た目は牧場でよく使われるような小さな小屋、その小屋の中には大量の藁が積もられていた。竜介はその藁の上で横になった。

ここまで来るのにかなりの体力を使ってしまったために体はかなり疲れている。

次第に眠気が襲い竜介は目を瞑った。










 かなり眠ってしまった・・・竜介は目を覚ました。

 少しだけ頭がボーっとする意識の中その意識を整えるように頭を不意に振った。

 小屋の外を見渡すと先ほどまで振っていた雪はやみかわりに大量の雪が地面を白くしていた。


 その光景を竜介が見渡していた瞬間、何者かの気配を感じた。

 追っ手か?次第にこちらに近づく足音も聞こえる。

 竜介の中に緊張が張り詰める、すぐに藁の上に置いていた剣を持つとそれを小屋の出口のほうに構えた。


 固唾を呑む、足音からして数は一人・・・、緊張がさらに張り詰める、その瞬間左腕が太くなり爪がむき出しになると今度は腰に付いた尾が伸び始めた。

 竜介はまさに臨戦態勢だった。


出てきたのは、少女だった、紫色の長袖を羽織りジーパンを履き、頭にはニット帽を被った少女だった。


と、竜介はその勢いのままその少女に飛び掛った、左手の爪と歯をむき出し、その少女を攻撃しようとした、竜介は、少女を倒しそのまままたがりその左手で少女の顔を殴ろうとしたが竜介は一瞬正気に戻り自分が襲っているのは、なんの身よりもない少女だったことに気づいた竜介はその拳を少女の顔の寸止めで止めた。



少女は飛び掛ってきた竜介の顔を見て、竜介が自分を殺す、恐怖感よりその竜介の顔の瞳を見て「きれい」と言った。


すると竜介は少女の近くにあった拳を上げる、そのまんま竜介は体をゆだねるかのように少女の肩に顔倒れ気絶する。少女は自分の顔の近くにある竜介の顔を見てまた、顔が真っ赤になった。


と、少女は竜介を自分の体から引き離すと自分の服の一部分が赤くなっていることに気づいた、竜介の体から血が流れていた。







竜介は静かな騒音の中、目を覚ました。目の前には、木で出来た天井がある。


竜介は、どうやらベットで仰向けになっているようだ、竜介の腰らへんに毛布が掛かっている、そして体には包帯なども丁寧に巻かれていた。


「こ、ここは?」竜介は仰向けのまま左側に首を向けると椅子に腰掛けてる少女がいた、その少女は竜介が敵と間違え攻撃してしまった少女だった。


少女は椅子に腰掛たまま首を、カク、カク、うたた寝をしていた。竜介は仰向けのままゆっくりと起き上がる、と、竜介はなんだかの違和感を感じていた。




「今、俺、仰向けで・・・」



そう、竜介は仰向けで寝ていた。


普通なら竜介の背中から生えている背鰭と腰から生えている尻尾が邪魔し仰向けで寝るのは不可能なのに竜介は、仰向けで寝ていた。


竜介は、おそるおそる自分の背中を見たすると竜介は、え、と静かく声を上げた。あれほど尖っていた背鰭がどこにもなくただ、服に背鰭で破けた思われる穴しかなった。


それと同じく尻尾もなくなっている、そして、左腕も見てみるがしかし、左腕は未だに変わらなく怪獣のようになっていた。


すると、隣に腰掛けていた、少女は、ん、と声を出し、


「うはああああ」と大きくあくびをして目を覚ました。


起きている竜介を見ると、あ、と声を上げ、竜介と目が合う、竜介はその少女に「君は?」と問いかけるが少女は急に椅子から立ち上がり目の前にあった扉へと走っていった。


竜介は少女を止めようとするがそのまま少女はドアを開け出て行った。

しばらくすると、ドアの奥のほうから人の喋り声が聞こえた。すると竜介がいる部屋のドアが開かれた。


そして現れたのは一人の男性とその隣にさっきの少女がいた。


「どうやら目が覚めたようだね」


男が親切げに言う「君、その左腕を私に見せてくれないか?」と男性が駆け寄ってきた。


「君も同じ目にあったんだね」


すると、竜介は、その男性の手の甲に焼印みたいな奴をつけていることに気づいた。円の中心に狼が書かれているやつだった。


「安心しなさい私は君の味方だよ。」


男は突然言う、

と、竜介は不思議に思った普通ならこの怪物のような左腕を見れば誰もが驚くはず

しかし、この男性と少女はかなり冷静だった。すると男性が「君、名前は?」と聞かれる。


「核山 竜介・・・」


すると男の表情が一瞬驚いた表情浮かべた。


「そうか・・・君が彼の」


男が言う彼とは何だ?――竜介は男の放った言葉に疑問に思う。


「安心しろ、私は君の味方だ、あくまで研究所の人等とは違う」


竜介は研究所という発言に一瞬、動揺が走った。


「なんで研究所のことを知っている!?ここは何処なんだ!?」


竜介の動揺を隠し切れないまま、声を荒げながら男に質問した。すると男は落ち着いてと言わんばかりに口を開いた。


「ここは、孤児院みたいな場所で、怪獣大戦で両親とかを失った戦災孤児や君みたいに実験台にされそうになった子達を預かってんだ。

おっと言い忘れたが私の名前は柏真臘てっ言うんだ。後この子も君と同じように実験台にされそうになった時に預かったんだ。百合実、挨拶は?」


すると百合実が竜介の前に立つと右手を自分のうなじに当て顔の穂を赤くし

「わ、私は、鈴木・・・百合実、・・・」と、弱弱しい声で自己紹介をする


「この子は極度な人見知りでな、あんまり友達がいないんだ。仲良くしてくれないか?」


「あ、はい」と、返事するが竜介は思った。真臘との話の前提が竜介をここの孤児院に過ごすことを前提に喋っていたからだった。


そのことに竜介は、「え、ていうことは・・・」と真臘に言うと真臘は、


「あぁ、そういうことだ。君もしばらくここにいるといい、あと、この天気じゃ」


と真臘は、右の人差し指を窓に刺す竜介も続けて窓を見ると、外は雨が降っていた。


今日は休むと良い、と真臘に言われ竜介は、そのまま、ベットに仰向けになる、真臘が竜介のいる部屋から出ようとした時、


「言い忘れたが右足の傷は、もう癒えてるよ」と言い残し部屋を出た。


竜介は、ベットをめくり自分の右足を見ると、包帯が巻かれていた、竜介は、その包帯を外すと傷は、なんもなかったかのように無くなり痛みもなくなっていた。


竜介はベット横たわる、今はただ、温かいこの布団に身を包んだ。




目が覚めると、竜介の横になっているベットに違和感を覚える、すると、なにやら尻尾に何者かが触れるような感覚がある、するとドアがコンコンと二回ノックして、「入るよ」と言う声と共にドアを開けて入ってきたのは、真臘だった。


すると、真臘は、ため息、を一つする、「やっぱりここにいたのか」と竜介の布団に近づくと竜介の布団の中にいきなり両手を入れる、竜介は、何事かと思った。


「ほぉら、見つけた!」と言うと真臘は二人の竜介を掴みあげた。一人は黒髪の竜介で、もう一人は、金髪の少年だった。


「チ、お前が動くから見つかっちまったじゃねぇか!」


金髪の少年が言う「それは、そもそも、あなたが動いたからでしょう」

と、敬語で返す黒髪の少年、そのやり取りを聞いていた真臘は呆れる。


「すまないね竜介」


「あ、あぁ、それよりこの子らは?」


すると、真臘は、掴み上げていた少年二人を床に降ろすと真臘は、二人の頭をポンと両手を置く。


「あぁ、この金髪の子は、荒目 金朗で、そしてこの子は、霧水 坂根だ」


と金朗と坂根は、竜介のほうへ近づくと竜介の左腕を見る、竜介は、この左腕を見たら怖がるかと思い左手を布団に隠そうとする、すると、坂根と金朗は、口を揃えて「「かっけえ」」と言う。


竜介は、思いもよらない言葉に動揺する。すると金朗は、

「なにその腕めちゃくちゃかっけぇ!まるで怪獣みてえだ!」


「こら、失礼だろうが」


「だってかっけえだもん!これで悪い奴らをいっぱいぶっ倒すんでしょ!」


その言葉に竜介は、あ、と声をもらした。思い出してしまったからだ、竜介は、あの研究所で多くの人を殺してしまったことを、竜介は、顔を下げて暗い表情を浮かべる

その表情に気づいたのか真臘は、金朗と坂根を掴み上げて部屋の外に放り出す、


「すまない、嫌なことを思い出しちゃったかも知れない」


自分の左腕を右手で隠す、その様子を見ていた真臘は自分の左てに着けていた黒い手袋を外し竜介に渡す。


「これは?」


「これは、君にやるよ」


「で、でも・・・」


「かまわないよ」


「ありがとう・・・・。」


竜介は真臘からもらった手袋を左手に着けた。その手袋には、何ともいえない温もりがあった。



  

  

ここに住んでからもう三日は経つだろう。

ようやくこの風景にも慣れたかもしれない。まだ雪で地面が白く覆われていた。

竜介が息を吐けばその息は白い靄となって吐き出されるほど、この時期は寒いらしい。


だが、不思議にも竜介には寒さなど微塵も感じておらず、それと真逆に体は熱く感じた。


竜介の体は一見すれば只の人間に過ぎない、あの時のように背鰭も尾も伸びていないからだ。


だが左腕に限ってはそうではない、確かに前と比べれば小さくなったが今もなお黒い皮膚と鋭い爪が伸びたままであった。


「寒くないの?」


突然竜介の背後から突然声を掛けられる。振り向くとそこにいたのは、百合実だった。

どうやら半袖姿の竜介を気にして話しかけてくれたらしい。


「あぁ寒く無い・・・」


真臘から聞いた人見知りとは裏腹に百合実は最近、積極的に話しかけてくるようになった。

最初こそはさすがに小屋での件で竜介に怖がって話し掛けられなかったが、竜介がそれに謝罪を述べてからは次第に。


良いことではあるのだろうか?人間をあきらめ自らを怪獣と認めたのに関らず、私は人間と暮らして・・・

竜介は自分の罪悪感に打たれる。

鷲掴み、殴り、蹴り潰し、今も左手には人を殺めた感触が残っていた。



竜介と百合見は施設の周りを歩きながら色々話を聞いた。だがその内容も竜介にとっては知らないことばかりだった。


「何故、百合見はこの施設に?」


その質問をした瞬間、ピタッと歩みを止めた。それを百合実の背後から見ていた竜介は、自分は聞いてはいけない事を質問してしまったとすぐに今の質問を撤回しようとするが。


「私の母さんと父さんは怪獣に殺されたんだ・・・」


やはりかと、真臘の言葉を思い出す。たしかこの施設は、戦災孤児なども扱っていると、ここにいる子供達は皆訳ありだった。

竜介は再び罪悪感に呑まれる、自分が暴れて殺した兵士達、その兵士にも大切な人がいたのだと、相手が先に仕掛けてきたと、自分を正当化するような言い訳をしていた自分が恥ずかしいと思った。


「すまない、嫌な事を聞いたな」


「謝らなくていいよ、別に気にしていないから」


自分の謝罪を優しく許してくれる百合見。彼女には感謝しなければならないと思った。

あの日、出逢わなければ多分私は野垂れ死んでたかもしれない。


真臘は室内で書類等の整理をしていると外に繋がる扉がノックされる。真臘は深くため息を着いた。


「また奴等か・・・」


そう小さい声で愚痴を吐きながらも扉を開ける。そこにいたのは迷彩柄の軍服を着た二人の兵士だった。二人ともアメリカ兵である。


「なんのようですか?」


「ここにガキは来なかったか?」


一人の米兵が唐突に言う。


「左腕が化け物みたいな奴だよ、ここじゃかなり匿っていそうだが?」


それに釣られようにもう一人の筋肉質な米兵がそう言った。この二人が探しているガ

キと言うのは多分竜介のことだろう。どうやら嗅ぎ付けたらしい。


「悪いですが私は知りません、ここの施設は戦災孤児を扱っている場所なので」


「三日前に起きた事は知っているだろう?例の研究所から実験台が逃げ出した事を」

「何の事でしょうか?」


そう何度も嘘を重ねて言った。


「まあいい、だが嘘を付くのは止めた方が良いぜ、なんてったってここを守っているのは私等なんでな」


そう言い残すとそのまま米兵二人は帰っていった。その瞬間、緊張が一気に緩み、その反動で椅子にもたれ掛かった。

というのもこの米兵は元々在日米軍で怪獣大戦が始まってからは日本の全国各地に配置されていた。

だが今ではもはや傭兵と化した。そして雇っているのは紛れも無い真臘であった。











怪獣大戦が終結後、人類と怪獣との戦いは辛くも人類の勝利に終わった。だがその勝利の代償はあまりにも大きかった。


難民や食糧不足、放射能による汚染、さらには怪獣の死骸から未知の感染ウイルスが蔓延しこれら二次被害をあわせて世界人口の3分の1を失った。


怪獣によって破壊され蹂躙された都市の復興は進まず、さらには発展途上国の間で資源などを奪い合う紛争が各地で発生する有様だった。


怪獣の被害が甚大だったアメリカでは政府の戦後処理の対応に不満を持った国民等が各地で暴動を起こしアメリカ国内も混乱が続いた。


その混沌とした世界情勢の中である国がアメリカに漬け込もうとした。ロシアである。


ロシアはアメリカの経済支援という名目で大手会社バイオ・メジャーに接触した。


これが全ての始まりだったかもしれない。


2004年、アメリカ、ボストンを中心に共産主義派勢力の軍部による大規模な軍事クーデターが発生。ボストンはクーデター軍により瞬く間に占領された。


そしてボストンを中心に各地で武装蜂起が勃発、アメリカ国内で民主主義派と共産主義派の二つの勢力による内戦が始まった。


緒戦は民主主義が優勢であったが後にロシア・中国が共産主義側に軍事的支援を行った事により形成は逆転、一気に攻勢は共産主義側に傾いた。


内戦が始まって約一年後、共産主義派はアメリカ本土を支配、追い詰められた民主主義派はハワイとアラスカまで後退、そこで亡命政府を樹立した。


やがて共産主義は国名を「バイオ・アメリカ」として独立宣言を発表した。

2005年、日本でも遂に恐れていた事が起きた。ロシアが日本に対して宣戦布告、それと同時に北海道に突如としてロシア軍が上陸、侵攻を開始したのだ。


もちろん日本政府は黙っている訳が無くロシアとの徹底抗戦が始まった。

しかし怪獣大戦が終わってまだ半年にも満たない時期に侵攻が始まったために国内は未だ疲弊しており。


そこを突かれる形になった日本に到底勝ち目はなく各地で奮戦したものの北海道は僅か一ヶ月で占領された。


だがそれだけにとどまらず今度は日本の九州から「バイオ・アメリカ」の軍が突如として上陸、侵攻を開始した。


2006年、一年にも渡る泥沼の戦いにもはや戦えるほどの戦力も物資も無い日本は瞬く間に北は北海道から東北地方、南は中部近畿・四国・九州地方と北はロシア、南はバイオ・アメリカと日本は二つに分断され終戦を迎えた。


後から知った話ではロシアは怪獣の死骸を自国に回収したのちその死骸の細胞を利用して新たな生物兵器を作ろうとしていた。それに国連側はロシアを大きく非難した。


だが国連側の国、ましてやアメリカも怪獣による被害が甚大であり放射能の汚染、経済の制裁を与える事は出来なかった。


対してロシアは怪獣の襲撃は何度かあったものの被害は各国と比べ軽微だった。

その後ロシアは中国、サラジア共和国などの三カ国と軍事的同盟を締結、軍事的勢力を強め世界は、第三次世界大戦の危機を迎えた。


しかし日本が分割統治されてから四年の月日が経ちバイオ・アメリカ統治下の南側日本で傀儡となった自衛隊、Gフォースの間で反乱の兆しが見られるようになった。



そしてその時は訪れた。



首都東京で一部自衛隊によるクーデターが発生した。

後に「2.11クーデター」と呼ばれるこの事件により、国会議事堂は瞬く間に占拠された。この事件を皮切り約四年にも及ぶバイオ・アメリカの支配からの独立を掲げ、「反乱自衛隊」と名乗る勢力を中心に日本各地の自衛隊駐屯地で武装蜂起が勃発した。


日本国内は再び内戦の戦火に包まれた。


真臘は肉眼でそれらの光景を見てきた。日本の独立を勝ち取るために戦う勇敢な兵士の姿をこの目で見てきた。

何故ならば真臘も同じ「反乱自衛隊」の義勇兵だった。


しかし戦地で負った怪我が原因で前線復帰が出来る状態では無かった。


その為、反乱自衛隊を去った後は今はこの施設でバイオ・アメリカの実験体として扱われた「精神科学開発センター」の子供を秘密裏に保護していた。勿論、全て一人で出来たわけではない。


ある日、内通者と名乗る男が真臘の元へ来た。どうやら真臘の事は前から「反乱自衛隊」と知っていたようだった。


その男が言うには娘を守ってほしい、さらには実験体になりそうな子供を保護してほしいとの事だった。


実験体?どういう意味だ?―――真臘はその男の言っていることに困惑した。真臘がどういうことか聞くとその男は全て話した。


「精神科学開発センター」の子供を実験体にしている事、怪獣の細胞を使って兵器を作ろうとしていることなど、バイオ・アメリカが秘密裏に行っている事を洗いざらい全て話したのだ。


これらの極秘情報を他人に口外するなど反逆罪をにもなりかねない、それを承知し覚悟した上で話したのだろうか?


全てを聞き終わった真臘は凄まじいほどの憤り感じた。子供を利用するなどここまで残酷なことはあるだろうか?―――


子供を使って実験体にしている事が真臘には許せなかったのだ。真臘はその男の娘を保護する代わりにバイオ・アメリカの情報を逐一こちらに提供することを約束した。


今になっては表書きを戦災孤児などを保護する養護施設の役員、だが本当の顔は反乱自衛隊の諜報員だった。













百合実と竜介が施設の庭を回っていると一つの花壇を見つけた。そこに植えられた一輪の花に竜介は興味を引かれた。


花弁の先端は丸くそして色は薄ピンク色、外観はチューリップに似ていた。

その花が何本かその花壇に植えられていた。


竜介はその花をしばらく見つめていると、「その花がどうかしたの?」と百合実が後ろから話しかけてきた。



「分からないけど、何故かこの花が凄く、懐かしく思ったんだ・・・」













続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る