秘密
その日の夜、私は海底に出来ているという基地の中でただぼーっと考えていた。珍しい事にナインスは疲れていたのか、子供のようにぐっすりと眠っている。
セブンスと行った情報交換だが有意義なモノだっただろう。しかし、その内容は厳しいに尽きた。
簡潔に述べれば、セブンスはフリューゲルでは裏切り者扱いされており、アースリーが居るであろう宮殿に闖入する術がないということだ。
「此処にいたのか……寝なくても大丈夫か? 私が子守唄でも歌ってやろうか? 今なら10セブンスターに負けておくぜ? ほら、お買い得だ」
閑散としていた部屋に入ってきたのはセブンスだった。何故か扉に凭れ掛かって、格好をつけているのか腕を組んでいる。どことなくキメ顔で、惚れてしまいそうだ。
「セブンスは……大丈夫なの? 信頼していた組織に裏切られて……」
「あー……シックスが私を裏切り者だと言っていたなら本当だろうな。ずっと音信不通だった私が悪いし……でも、落ち込んではいないさ。フリューゲルのやり方は気に食わない。寧ろ、クビにされて清々したかな」
「これからどうするの?」
「うーん……まあこの秘密基地の改良して、いずれは理想のセブンスターを建設する。私は私の夢を追うよ。あっ、でもフォースたちの手伝いはしてやるよ。乗りかかった船だ」
「そう……ありがとう……」
手伝ってくれるのは有難い。そもそも悄然としている私に声を掛けるくらいだ。一見ふざけているように見えても、ナインスは優しい性格をしているのだろう。
「それにしてもナインスと乳繰り合っていなかったか……てっきりあんたたちの事だから発情していると思ったんだが……」
「淫猥な話ね。私とナインスは家族よ?」
「じゃあしないのか?」
「したいけど出来ないのが現状よ。内なる私に邪魔されるのよね」
「なんだそれ」
まあ、紳士モードの存在を知らないセブンスからしたら荒唐無稽な話だったか。
苦笑いを浮かべるセブンスに、私は溜息を落とし、気まぐれで口を開いた。
「一応、言っておくけど貴方も私の妹よ?」
「へ?」
「貴女も言っていたでしょう? 私たちは家族だって……」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするセブンスは実に間抜けだろう。
「あれは冗談のつもりだったんだが……」
「冗談じゃない。貴方は私たちの家族だから、何かあったら遠慮せずに言ってね。力になってあげる。ナインスだって同じの気持ちの筈よ……」
「……そっか。まあ悪い気分ではないよ。家族かぁ……」
感慨深げに俯いてしまったセブンスを横目に、私はベッドへと寝転がった。
「はぁ……どうしようかしら……アースリーを暗殺するにはレグルスに潜入しないといけないのかぁ……」
当初の予定では民間企業に偽装しての潜入だったが、脱線してしまった以上、戻ることはできない。ムーンノイドの力を借りずに、私一人でどうにかするしかないのだ。現実は非常に厳しい。
レグルスと言えばオーダーの本拠地。がばがば警備だったフリューゲルとは正反対に違いない。きっと網目のないレーダーと警邏で溢れているだろう。
「私も正面突破なら何度かしたことあるけどオススメはしない。その後の暗殺が大変になるからな」
「でしょうね。そうなるとひっそりと忍び込むしかないのけれど……」
「海中はレーダーに捉えられないから安全だ。問題は陸に上がってからだな」
先ず、レーダーがしっかりしているので変身するのはダメだ。人間としてアースリーに近づかないといけないが、そうなると色々と問題が浮上してくる。暗殺するための手段、逃走経路、そして何よりもターゲットに接近、またはおびき寄せる方法。綿密な計画と、それを遂行するための正確性が必要だろう。
「……一つだけ、方法がある」
「あるの? もしかしてまたセブンスターかしら?」
「おうとも! セブンスターの技術を結集して作った秘密のトンネルが出来る予定なのだ!」
「へぇ、いつ出来るのかしら?」
「建設期限は無限! 気まぐれで掘っていたからまだまださ!」
がはは、と笑っているセブンスだが、それはサボっていたと自白したようなものだ。
「ついでだから案内してやろう。この秘密基地の地下からレグルスに繋がることを願って掘っているのさ」
「あ、無計画なのね」
幸先、いや悪い兆しだろう。
しかし、もはやそれに縋るしかないので、取り敢えずセブンスに案内されて下へと降りる。因みにエレベーターみたいな文明の利器はなく、梯子でさらに深く降りる。
そこには寝室以上のドーム型の空間があった。そして、その中央には移動するための手段なのか、トロッコが敷かれている。
「埃臭いわね」
「しょうがねーだろ。一人で作ってんだからな。セブンスターもびっくりだぜ」
「いつ出来るのかしら?」
「さあ? レグルスにぶち当たるまでかな? 方向は合ってっからそのうち下水道か何かに当たるだろ」
「て、適当ね。下水道は遠慮したいわ」
「まあ、これで晴れてフォースもセブンスター入りだな。頑張ろうぜ!」
セブンスは八重歯を見せ、屈託のない笑みを浮かべる。
「……ちょっといいかしら」
「なんだ?」
「セブンスターってなに?」
今更過ぎる質問だったのだろう。
セブンスは腹を抱えて笑い、近くのピッケルに躓いてしまった。鼻血を出して悶絶している姿があまりにも滑稽だったため、笑い返してやった。
百合ん百合んな野望 劣白 @Lrete777
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