第38話
その証拠たる刀身であるが、かつての彼ならば地獄の力を宿す刀身はすべてほのかな紫を帯びていた。3人の協力を得て仕上がった刀身は、ほのかに青白い輝きを帯びている。
妖刀としての禍々しさはもはや一点もなく、見る者の心に安らぎをそっと与える優しさに満ちていた。
「これは妖刀というより、どっちかっていうと霊剣とか御神刀やな」
「とっても優しい光……見てるだけでなんだか、どんな困難にも立ち向かっていけそうな、そんな自信が湧いてきます!」
「だからワシの祈りのおかげじゃね?」
「いや絶対にない」
「それだけは絶対にないわ」
「あーっ! そんなこと言うんだァ。たかが妖狐と鬼のくせに、龍たるこのワシに向かってそんな態度取るとどうなるか……わかってるのかなァ?」
「――、朱音」
「は、はい」
「……華天童子、巴も」
「どないしたんや旦那様」
「なになに? どしたの?」
「……ありがとうな。お前らがいなかったら、俺だけだったらきっとこんなにいい刀はできなかった」
人生とは本当に何が起きるかわからない……村正は心の中でふと笑う。
突然やってきた押しかけ女房の
彼女らと出逢えて本当によかった……村正は心から彼女らに感謝した。
「村正さん……」
「旦那様……」
「うんうん、ワシのありがたみがわかっ大変よろしい! というわけだからそのお礼はワシの世話一生分でいいよ」
「ちょっと何いってるかわからない――って、それよりも一本だけじゃ駄目だ。時間が許す限りたくさん作っておきたい!」
「わかりました!」
「どこまでもついていくで旦那様!」
「え~……まだやるのォ。その一本あればワシがこう、ちゃちゃーっとやって終わりなんじゃねェ?」
「お願いだから今は黙ってくれないか?」
ぶぅぶぅと文句を垂れる巴を説得して、村正は再び鉄を打った。
ちょうどその時、工房に転がり込むように1人の来客者があった。なんとタイミングのよいことか、村正は息を激しく乱す
やっとの様子で手に取った頼光であったが、彼女が鞘からほんの
「な、こ、この太刀は……なんと美しい輝きなのだ。それに陽光のようにどこか温かく優しい……!」
「俺だけじゃない、ここにいる3人が一緒にいてくれたからできあがった一品だ。もっていけ頼光、こいつは必ずお前の力となる」
「ありがたい……! あ~正直に申すとだな村正殿。その、以前某が買った刀だが日に日に持っているのが辛くなってきてだな」
「え……」
「ここ最近だと妙な声が聞こえるようになったのだ。なんというか、その……神様斬ろうぜとか大変不謹慎な内容ばかりなのだ」
「…………」
「し、しかしこの太刀ならばもう大丈夫だろう! 感謝するぞ村正殿!」
「……あぁ。うん、とりあえず喜んでもらえたららよかったよ」
「げ、元気出してください村正さん」
「大丈夫だ……俺は気にしてない――それよりやるべきことをまずはやるぞ」
次から次へとできあがる刀を村正はすぐに店の前にずらりと並べた。
逃げ惑い、未だ混乱の渦中にある住民らも村正のこの行動に視線を移す。
「さぁさぁ! ここにあるのはこの俺、
これは数打。仕手の無事を願う思いは確かにあれど、真打に比べれば安物も安物。しかしながら急ごしらえでも、もう直にやってくるであろう災厄に立ち向かうには充分な代物だと村正には自信があった。
「お、お金取るんですか……?」
ひそひそと朱音が背後より村正に耳打ちをした。
「仕方ないだろ。ここ最近俺の刀も売れ行きはよくないし、それに朱音だけじゃなく華天童子まできたんだ。おかげで我が家の食費とかどれだけかかってるか……どれだけ名匠だろうが、つまるところ金がなきゃ生きていけないんだよ」
「そ、それはそうですけど……だったらさっさとあの鬼娘追い出しちゃいましょうよ」
「今はもう無理だけどな――さぁ早い者勝ちだ!」
ざわつく住民らは、どうするか未だ踏ん切りがつかない様子で決めあぐねている。
もう一声必要だ、すると頼光が彼らの前に身を出すと声を張り上げる。右手からすらりと太刀を抜き、青白く輝く刃を天高くへと翳す姿はどこか神々しいさえもある。
「この太刀を見よ! この輝き正しくこの混乱を鎮めあの妖怪を屠るに相応しい刀! 貴殿らにも家族や愛する者、守るべきがあろう。ならば迷っている場合ではなかろう! 今こそ一丸となって立ち上がる時だ
時に鍛冶師は、購入しにやってきた仕手が有名であれば格安で販売する代わりに宣伝するように依頼することがある。宣伝する者が有名であればその影響力も大きい。高天原なら半日もあればあっという間に宣伝は行き届く。
その宣伝も、よもや源頼光自らが務めてくれるとは……思うどころか考えすら当初なかった村正にとって、彼女のこの行動は大きな影響をもたらした。
頼光の宣伝によりその侍はどうやら決心がついたらしい、躊躇う様子もなく懐からすっと五両を取り出すと、一言――売ってほしい、ともそりと言った。当然村正に大切な顧客を拒む道理はない、数打を要望通り差し出す。
双方合意のもと商談が成立したのを皮切りに、1人、また1人と次々と新しい顧客が生まれついにはこの場にいる全員がこぞって村正の太刀を求めた。中には倍額を出すという者まで出始める始末に、村正は嬉しい悲鳴を上げながら次々と売っていく。
数にして約56振――そのすべてが顧客の元へと行き渡った。
完売である。
「あっという間に完売してしまいましたね……!」
「まさか自分の刀がこうも売れてくれる日がくるなんてな……! 諦めずにやり続けてきてよかった」
「さすが旦那様やわぁ」
「いやだからァ、これも全部ワシ――」
「さてと、後はあいつがくるのを待つばかりだな」
「ねぇ無視? 無視はいくらなんでも酷くないかなァ!?」
ぎゃあぎゃあと小やかましく喚く巴を、けたたましい咆哮が遮った。
辛うじてではあるがなんとか間に合わせた、村正はホッと胸を撫で下ろし視線の先にある彼らを
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