第35話
「……フゥ、ヨウヤク 手ニ入レルコトガデキマシタカ」
「お、大百足が喋った……!」
彼ら龍族にとって大百足の声を……厳密には言葉を耳にしたのははじめてのことなのだろう。
しかし村正だけは違った。大百足の発した声と口調はよく知る者のそれで、この再会を前に彼の右手は誰よりも迅速に太刀を取った。
「ベルゼブブ……! どうしてお前がここにいるんだ!?」
「フフフ 驚イテイルヨウデスネ村正。アナタニハマダイッテイマセンデシタガ 我々地獄ニ住マウ者ガ
「じ、地獄だと……!?」
「オ初オ目ニカカリマス 神ニ最モ近キ場所ニイル
「ま、まさか貴様が……!」
「サスガハ龍ノ王 ナカナカ鋭イデスネ――ソウデス コノ我ガ今ノ
衝撃の事実をさらりと口にした、それとほぼ同時。
「じゃあ死んで」
それまでの陽気さなど微塵もなく、どこまでも冷たく鋭い殺気を言霊に乗せた巴の一矢が
「……どうして大百足を復活させた?」
「ソレハ村正 アナタナラバ容易ニ想像デキルノデハ ナイデスカ?」
「む、村正さんが?」
「どういうことや説明してもらおか」
「ソコニイル彼
「……まれ」
「ソシテ我々悪魔ハ ソンナ彼ノ魂ヲスカウトシタノデスヨ 彼ノ鍛冶師トシテノ腕前ハ常軌ヲ逸シテイル 剣ノ腕ハ……マァ粗削リナ部分モアリマスガソレデモ充分戦力ニナル」
「黙れと言っている!」
怒りを露わに村正が地を蹴った。大百足と化したベルゼブブの胴体に右手の延長にある太刀がびゃっと鋭く風を斬る。先の一戦において童子切村正では大百足の表皮は斬れない、その事実を既に理解しているにも関わらず目の前の悪魔への怒りが村正から忘れさせた。
並みの妖怪であれば一刀の元に両断できよう太刀筋も大百足の表皮には小さな傷つけるのがやっと。
――くそっ、やっぱり駄目か……。
――こいつはえらいことになったぞ。
――大百足の堅牢な強固にベルゼブブの悪魔としての力……。
――最強の盾と矛を手に入れたようなもんじゃねーか!
舌打ちをする村正に
「シカシ彼ハ 地獄カラ見事逃ゲ切ッテミセタ……数多クノ
「お前の目的はいったいなんだ!? 大百足を復活させ我ら龍族を襲ったのは何故だ!?」
「最初カラ我ノ目的ハコノ大百足ノ
「――、まさかお前は……!」
「ご明察。我ら悪魔が憑依する
「だから今まで直接関与してこなかったのか……!」
「下級の悪魔の仕事ですからね、我々ほどの強大な力を持った悪魔だと憑依した瞬間に
大百足の討伐が結果的に、この
「……例え貴様が地獄の住人であろうと、我らの同胞の命を奪った罪は重い。大百足共々、今ここで貴様を討つ!」
「さすがにワシも今日だけはかなり怒っちゃったかなァ――覚悟できてる?」
「ふふふっ、さすがは龍。威勢がいいですね――ですが残念ながらあなた方の魂は我々の地獄に相応しくない。欲しいのはそこにいる村正と、悪に染まった人間達の魂なのです」
「あ、ま、待てベルゼブブ!」
「さて、では我はそろそろ仕事に取り掛からなければならないのでこれにて失礼します。これより多くの人間の魂を蒐集しなくてはなりませんので」
「逃がすか!」
「それでは村正、また後でお逢いしましょう。今度こそその魂を犯し尽くして差し上げますよ」
一瞬にして姿を消した
あまりの出来事に彼らが混乱の極みに達するのも無理はなく、しかしさすがは王――彼の一喝が狼狽する家臣達に冷静さを取り戻させる。
「落ち着くのだ! 今こうしていても事態は何も変わらないのだぞ! 我らがやるべきことは何だ――今ここで何もせずただ狼狽えて時間を無駄に潰すことか!?」
次々と、そうだそうだ、と口々に発する。さっきまで絶望に
人がもっとも多い都をあの悪魔が放置するはずがない。
村正は竜宮城を鉄砲玉のように飛び出し、高天原へと急いだ。
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