第52話 目的

「親父何でここに!?」


「まあ......

 やぼ用があってな」


 驚くオレにそう告げると親父はザハーストラに近づいた。

 

「神目さん......」


「息子たちに大分やられたな」


「......ええ、あなたたち家族は私の邪魔ばかりで困りますよ......

 それでわざわざなんのようです......

 やはり息子さんを信じられずに来たのですか......」


「違う」


「違う......

 違わないではないですかここにきてるのだから......

 あなたもユーヤくんも互いに信じなかったからでしょう」


「いいやあいつはオレを信じたんだよ。

 手紙に俺が信じろとかいたからここに来たんだ

 そんな恥ずかしいこと普通俺が書くわけないからな」  


「......信じないことを信じたと......」


「オレもあんたも親父の手のひらの上だったってことさ」


 俺がそういう。


「そんなばかな......

 あなたもあなたの国も私にあやつられていたはず......

 いや、まさか彼女が......」


「そう......

 アリーシアから魔法を教わっていてね。

 魔法耐性を上げて操られるふりをしていただけだよ。

 彼女はゲートを開けたのがお前だと気づいていた。

 そしてお前が必ず脅威になると思っていたらしい」 


「......なるほど......

 だがこんな危険な賭けを自分の息子にかすとは......

 ひどい親だ」


「そうでもないさ。

 そのぐらいこいつならやってのけると思った。

 夫婦でな」


「それが強がりでも確かに結果はそうなりましたね......

 それで......  

 その目論見が成功して、私を蔑みにでもきたのですか......」


「いいや、妻から......

 アリーシアからお前に伝えて欲しいと言づてがあったんだ」


「言づて......」


 少し沈黙して親父は話した。


「あなたのしたことは許されることではない。

 けれどあなたのお陰で争い会う各種族が和解した。

 長い年月はかかるかもしれないが融和していくだろう。

 そして......

 あなたは目的も何もなかった私に家族を与えてくれた。

 ......ありがとう......」


 それをきいてザハーストラは少しだまる。


「ふふっ、さすが聖女ですね、

 甘い人だ......

 でも......

 悪くない気分ですよ......

 ありがとう......か......」


 そういうとザハーストラは沈黙し、ただの骸骨になった。

 オレにはその顔が笑っているようにも見えた。


「やぼ用も済んだことだし帰るか悠哉に君たち」


 そう親父がいう。


「......あとその前に誰か回復魔法を頼めるかな」


 そういって親父はぐらつきオレは体を支えた。


「親父!!」


 よくみると親父は結構怪我をしていた。


「一人でくるなんて無茶すんなよ」


「お前に言われたくないがな」


 そういう親父に肩を貸すとオレたちは帰路に着いた。



「さあ! たのしもーぜ......」


「ああ! ザインが間違ってお酒飲んじゃった!

 泡吹いてる! 回復魔法!」


 親父が許可をとってみんな呼んで寮でパーティーをしている。

 オレは親父がいないことに気づいて、庭のほうに向かった。

 庭では酒の入ったコップを持って夕空をみている親父がいた。


「なにたそがれてんだよ親父」


「んー、ここがアリーシアの生まれた世界なんだなと思ってな」


「そんなセンチな感覚を持ってたなんて意外だな」


「そうか」


 特に話す話題もなく、オレは去ろうとすると親父は声をかけてきた。


「悪かったな......」


「なにがだよ」  


「ザハーストラのことお前に託しちまって」 


「別に......

 信じてたんだろオレのこと......」


「......ああ」


 そして沈黙する。


「......そうだ。

 よくお袋と一緒になれたな。

 国の機密になるぐらいのことだったんだろ」


「......あれはオレが外務省にはいってすぐゲート調査に駆り出されてな。

 そしてその夜ゲートの近くでアリーシアと出会った」


「それでよくばれなかったな」


「ばれたさ。

 俺は隠れるように入ったが彼女は真面目でな。

 国の偉い人間に会わせるよう頑なにいってた。

 ザハーストラの脅威を伝えようとしたんだろう。

 俺は危険だと思ったから、彼女を言いくるめて偉い人間を操作させたのさ」


「あいかわらずひでーな」


 そういうと親父は笑う。


「彼女は善人でチョロい、言われたことを疑いもせず何でも信じてしまう。

 それは彼女にとって危険だった。

 国にいいように操られる可能性があったからな。

 だからそうなる前に偉い奴らを操作したのさ」

 

「国を裏切ってんのかよ」

 

「当然だ。

 惚れた女のためだぞ」


 親父は笑っていう。


「......それで一緒になったのか」


「ああ、だが魔法の影響か、元精霊エレメンタルが肉体を得たからなのか、彼女はお前を産むとすぐ消えていった。

 俺に全てを託くようにしてな......」


「オレが魔力マナを固定できるのもそのせいなのか......」


「そうだろうな......

 お前にも精霊エレメンタルの力が備わっているから、体の一部としてその魔力マナを使えるんだろう」  


「だからオレの近くなのか」


 オレが自分の手をみていると、親父はこちらをみて言う。


「お前......

 あっちに帰るか......」


「ん?」


「ザハーストラの脅威は去ったんだ。

 国の連中の操作も解けるから、ここにいる意味もなくなったんだしな」


 少し俺は考える。  


「いや、ここに残る。

 オレはまだやりたいことが見つからない。

 親父がいったようにここは退屈しないからな」


 オレがそういうと、そうかと短く親父はそういった。

 その顔は寂しそうにも見えた。


「おーい、ユーヤ!

 なにしてんだあ!」

 

「ちょっとザインダメよ!」 


「そうだよ! 久しぶりの親子の再会なんだから!」


 リビィとルイエがそう騒いでいる。


「戻るか」


「ああ」



 オレと親父は二人並んで笑いあい寮にむかった。

 

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異世界留学生 @hajimari

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