第111話 結婚行進曲
祭壇の前に年老いた牧師NPCがひとり立っている。
ヴォイドと
音楽もない、花もない。質素な教会に、血飛沫のケンと
花嫁は純白のウェディングドレス。課金すると入手できる衣装だ。
血飛沫のケンはというと、タキシードを用意し忘れたのか、白の道着姿で現れた。
花嫁はその父親がエスコートするのがマナーだが、いないものは仕方がない。
新郎新婦はゆっくり歩いて祭壇の前にたどり着いた。
牧師が何か言い始めたが、声が小さすぎて小次郎たちのところまでは聞こえない。
「誓います!」
にわかに血飛沫のケンが大きな声を出した。誓います、誓います、誓いますと建物内に声が反響する。ヴォイドが下を向いてくすくす笑った。
「誓います」、と
相変わらず表情はなかったが、小次郎には彼女が一瞬幸せそうな顔をしたように見えた。
◇
「ピアノのひとつでもあったら俺が演奏して盛り上げたのになあ」
教会を出てヴォイドが言った。
「まあまあ。本人たちが幸せそうだからそれでよしとしましょう」
血飛沫のケンと
◇
血飛沫のケンと
「もう帰るのか」
「帰ります、アウトレットモールの経営がありますから」
血飛沫のケンがぽつりとつぶやいた。
「また3人で会えるといいなあ」
ヴォイドが「さあ、どうだろうな」とからかうように言う。
「ゲームでの出会いは一期一会だ。あんたたちとリアルでの連絡先を交換したわけでもないし」
「これで最後だというのに、情緒のない人だ。このゲームがある限り私はここにいますよ。それじゃあ」
「なんかさみしいな、これで最後だなんて」
なおもぐずぐずしながら血飛沫のケンが言った。
ヴォイドが笑う。
「俺たちには時間がたっぷりある。ここでの出会いが一期一会なら、またそのうち一期一会があるだろう」
「師匠」と言って、
血飛沫のケンはうなずくと、ヴォイドたちに手を振って「テレポートチケット」を握った。
茶畑の中に立つのは、再び3人だけとなる。
「俺たちも行こう。最後の旅だ」
ヴォイドが小次郎と忠政の方を振り返って言った。
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